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第19回勇気ある経営大賞

そこが知りたい ! 救急エコー 一刀両断 !

定価:4,180円(本体3,800円+税)

商品コード: ISBN978-4-89590-568-8

A5変型 / 264頁 / 2017年
【監訳】今 明秀(八戸市立市民病院副院長 救命救急センター所長 臨床研修センター所長)
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内容紹介

これだけあればなんとかなる! 救急医療・外科・集中治療において
超音波を使いこなすための実践的クイックハンドブック!
【電子書籍付き】

エコーは患者のもとで行える非侵襲的、無痛の安全・迅速な画像診断であり、その対象疾患は幅広い。

本書はエコーの使用と読影のための簡便なガイドとして最適な1冊である。対象となる疾患や症候に対し「なぜエコーを使うのか」「コツと落とし穴」「便利なヒント」「警告」「注意点」などがわかりやすくまとめられている。また、「エコーでわかること」「エコーではわからないこと」が明確に記載されているなど、知識の整理に役立つ。イラストや画像も豊富に掲載。救急外来で“これだけあれば何とかなる"ポケットサイズのハンドブックである。

スマートフォン、タブレット端末、パソコンで、いつでもどこでも気軽に読める電子書籍が付属 !

訳者紹介(五十音順)

伊沢朋美(八戸市立市民病院救急救命センター)
伊藤 慧 (八戸市立市民病院救急救命センター)
今  明秀(八戸市立市民病院副院長 救急救命センター所長 臨床研修センター所長)
田中 航 (八戸市立市民病院救急救命センター)

監訳者の序文

シン・エコー

 2002年、肺エコーが欧州でデビューした後、世界中の救急医たちが、胸水や気胸、肺うっ血、肺炎などの診断で使い始めた。それまで腹部エコーや心エコーの達人だった先輩医師たちは、最初は冷ややかな目線をくれていたが、若手医師が器用に肺エコーで診断している診療風景を眺めるにつれ焦り始めた。新しい医療技術が出た瞬間、ベテラン医師と若手医師の間に差がなくなる。腹腔鏡手術、MRI、外傷診療JATEC、AEDのデビュー時、概して若手医師のほうが新技術に早く対応してきた。肺エコーは、切れ味抜群のlight saberだ。第5章を先に読め。ジェダイたちがダースベーダ―に立ち向かうように、敵(病的肺)に向かってbeamを使え。
 目の前の患者が低酸素、血液低下、意識障害のとき、医師たちは緊急処置を開始する。そんな場面でエコーは大活躍する。特にFASTとよばれる外傷エコーは、内因疾患にも役立つ(第7章、第8章)。緊急エコーは術者に大きく依存する。エコーは身体所見の追加所見と考えて結果を解釈すべきだ。皮下脂肪が厚い肥満女性に対しての視診、聴診、触診、打診が正確さに欠けることは周知されている。エコーも同じだ。治療や評価にかかわらないあいまいな所見を時間かけて集めても無駄である。陽性所見は診断を確実にするが、陰性所見は解釈に気をつける。脂肪が厚い患者は要注意だ。第15章に書いてある。脂肪は合衆国の敵(enemy of US)であり、エコーの天敵だ(enemy of US)。
 スワンガンツカテーテル診療に使われ始めた頃、初代ゴジラが現れた。そして災害現場で小型エコーが使われる時代にシン・ゴジラが現れた。映画のゴジラは大進化していた。40年前はスワンガンツカテーテルで循環血漿量を把握していた。その後、中心静脈カテーテルでCVPを測定するだけで代用できるといわれ、今では心エコーと下大静脈エコーで循環血漿量を非侵襲的に十分把握できるようになった。時代は進化してきた。いや簡略化? 退化? してきた。第6章には、的を絞った心エコーと下大静脈径の評価法について記載されている。やっぱり大事なのは、心エコー、新エコー、真エコー、進エコー、芯エコー、信エコー、シン・エコーだね。
 本書は腹部エコーや心エコーを上達させるためのテキストではない。救急外来で「これだけあれば何とかなる」テキストである。これまで「何となく」行われていた救急外来エコーは、シン・エコーになる。

八戸市立市民病院救急救命センター所長
今 明秀

目次

序文
謝辞
原著の貢献者
監訳者の序文
訳者紹介
略語

第1章 はじめに
 エコーとは
 救急エコーとは
 放射線科医との違い
 最初に考慮すべきこと

第2章 エコーはどのように動いているのか
 エコーとは何か
 エコー診断の種類
 画像の描出
 トランスデューサー
 方位
 キーボード
 アーチファクト
 便利なヒント

第3章 腹部大動脈
 問題 : 腹部大動脈瘤(AAA)はあるか
 なぜエコーを使うのか
 臨床像
 検査の前に
 方法と画像
 便利なヒント
 エコーでわかること
 エコーではわからないこと
 注意点

第4章 FAST (focus assessment with sonographyin trauma)とEFAST(extended FAST)
 液体貯留はどこにあるのか
 なぜエコーを使うのか
 臨床像
 注意事項と禁忌
 検査の前に
 方法と画像
 便利なヒント
 FAST でわかること
 FAST ではわからないこと
 注意点

第5章 肺と胸郭
 肺エコーの有用性
 なぜエコーを使うのか
 臨床像
 注意事項と禁忌
 方法と画像
 観察できるもの
 コツと落とし穴
 エコーでわかること
 エコーではわからないこと
 注意点

第6章 的を絞った心エコーによる循環血漿量の評価
 なぜエコーを使うのか
 実践してみよう
 コツと落とし穴
 注意点

第7章 尿路
 はじめに
 エコーを使う5つの理由
 解剖
 エコーでわかること
 エコーではわからないこと
 方法と画像
 プローベの位置とランドマーク
 ちょっとしたコツ
 注意点

第8章 胆嚢と総胆管
 はじめに
 なぜエコーを使うのか
 解剖
 救急エコーでわかること
 救急エコーではわからないこと
 方法と画像
 ちょっとしたコツ
 注意点

第9章 妊娠早期のエコー
 はじめに
 異所性妊娠
 なぜエコーを使うのか
 救急エコーでわかること
 救急エコーではわからないこと
 βHCGの役割
 臨床像
 検査の前に
 経腹エコーの方法と画像
 便利なヒント
 注意点

第10章 エコーガイド下穿刺
 なぜエコーを使うのか
 プローベの滅菌
 中心静脈穿刺法
 胸腔穿刺、心嚢穿刺、腹腔穿刺
 恥骨上の膀胱穿刺
 腰椎穿刺

第11章 神経ブロック
 なぜエコーを使うのか
 どこの神経ブロックか
 エコーのみえ方
 プローベとスキャン設定
 技術
 特定の神経ブロックに関する注意事項
 コツと落とし穴

第12章 深部静脈血栓
 深部静脈血栓はあるか
 なぜ圧迫法を使うのか
 解剖
 臨床像
 検査の前に
 方法と画像
 便利なヒント
 3点圧迫法でわかること
 3点圧迫法ではわからないこと
 注意点

第13章 筋骨格系組織と軟部組織
 観察項目
 小児の骨盤内出血
 軟部組織感染症
 肩関節脱臼
 骨折の診断

第14章 軟部組織異物
 問題 : 本当に異物があるか
 なぜエコーを使うのか
 臨床像
 方法と画像
 便利なヒント
 エコーでわかること
 エコーではわからないこと
 注意点

第15章 紛争時や宇宙における救急エコー
 現場でのエコー
 コツと落とし穴
 検査の前に
 気道と呼吸
 エコーでの気道評価
 エコーでの呼吸評価
 循環
 筋骨格系
 宇宙におけるエコーの遠隔利用
 エコーの未来

第16章 結論
 監査 / 質の管理 / 訓練
 研究と今後の方針

付録1 記録用紙
付録2 有効な団体や組織
付録3 参考文献

索引

書評

[評者]岩田健太郎 神戸大学医学部附属病院感染症内科

 結論から申し上げる。ぼくは本書が大好きだ。かなり、シビレた。
 監訳者である今明秀先生から本書の書評を書くよう依頼されたときは、正直、困惑した。ぼくは超音波のプロではないし、救急のプロでもない。FASTなんてやったことがない。ぼくが沖縄県立中部病院で研修していた時は、まだこのコンセプトはなかったと思う。その後はわずかな北京時代以外は外傷患者をケアする立場になく、その診療所はFASTを行うようなセッティングではなかった。とにかく、本書を論ずるにはあまりに場違いな立場ではないか。ぼくはまるで、青山通りをひとりで歩いているかのようなアウェー感をこの依頼に感じたのである。
 しかし、本書を読んでぼくのアウェー感は霧散した。本書は「ぼくのために」書かれた本だったのだ。もちろん、著者たちには(訳者にすら)そのような意図は毛頭なかったと思うが、ぼくはそのような温かい呼び声「calling」を感じたのである。ぼくのアイドル、医師の理想像であるポール・ファーマーは講演のとき、聞き手一人ひとりが「私だけのためにポールは話してくれている」と感じさせる稀代の人たらしだが、ぼくは同じことを本書に感じたのだ。
 本書は超音波を専門にする技師や医師のために書かれた本ではない。ぼくのように超音波に疎い、しかし「超音波使えたらいいよな」と思っている医療者のために書かれたのだ。本書は「10回の実施程度で術者はその症状について十分な検査ができるようになる」ことを目指した本なのである。これは素晴らしいことではないか。石を見つけたり、血栓を見つけたいとき、自分でプローベを持って調べることができたら、とてもハンディで便利ではないか。確かに専門家に任せればずっと精緻で膨大な情報をもたらしてくれるであろうが、夜間、遠隔地、あるいは被災地など精緻な情報の意義が相対的に目減りし、手近で即時的な情報の価値がずっと高いときに、このような痒いところに手がとどくような本がポケットに入っているのは素晴らしいことではないか。被災地の診療現場全てに放射線科専門医や超音波検査技師を配置するなど、ナンセンスなことなのだから。
 ぼくが特に本書で感動したのは、「救急エコーの適応と限界」を明確に示したことにある。超音波技術に極めて優れた日本で、なぜオーストラリア人が著した本を訳さねばならないのか、そこも当初ぼくが訝しく思った点である。理解した。日本は技術に対する敬意が非常に高い国であるが、反面、批判的吟味は苦手な国である。超音波のテキストであれば、「こういうことができる、あんなこともできる」な本になる可能性が高い(それも名人限定)。あるいは、超音波が不要な場合にもこんなして使え、あんなして使え、の本になるかもしれない。しかし、正当な適応(と不適応)、それに理性あるリミテーションがあるからこそ、ぼくのような読者は安心して本書を活用できるのである。
 本書の射程は長い。宇宙空間における超音波の活用が書かれている。超音波検査の未来が述べられている。そして、かっこよく、こうしめくくられている「聴診器も使えないような医師では、やはりUSも使えない」と。本書が極めて臨床的なテキストであることが、ご理解いただけただろうか。

「medicina」Vol.54 No.5(2017年4月号) (医学書院)より転載