環境適応 実践実技ノート―中枢神経系障害への知覚探索アプローチ
電子版あり
定価:4,620円(本体4,200円+税)
商品コード: ISBN978-4-89590-706-4
内容紹介
環境適応の鉄板実技を極める!
中枢神経系疾患の臨床で悩んでいるOT・PT・ST必読の書!
環境適応とは、個人-環境-課題間の知覚探索の過程を再構築し、適応行動を促していくアプローチであり、人間の運動行動の本質を見据えた、他に類をみない考え方に基づく諸活動の分析により熟成されてきた技術である。
全国で展開する環境適応講習会では、目の前の片麻痺者への治療を通してそのことを実証し、セラピストとしてのやりがいと難しさのメッセージを発信し続けてきた。
本書は、「平面適応・移動空間」「洗体・更衣」「アクティビティ」「食事」の各テーマにおける実践的アプローチを凝縮し、これからの臨床を担う皆様に、その理論と技術の奥深さを伝授する。
患者さんにとって有効な感覚情報になりうるユニークな発想の実技が満載!
目次
概説
人間の運動行動と環境適応・・・柏木正好
I 平面適応・移動空間
平面適応
総論
平面適応・・・保谷勝義
実践事例
1. ポジショニング(背臥位,車いす)・・・仲川 仁
2. 寝返りの徒手誘導・・・髙橋啓吾
3. 起き上がりの徒手誘導・・・横内俊弘
4. 臥位におけるシーツの活用(緊張緩和,寝返り,起き上がり)・・・橋本勇也
5. 床上連続動作・・・伊林克法
移動空間
総論
移動空間・・・八児正次
実践事例:空間への適応
1. リーチングと移動(前方,上方,下方へのリーチング)・・・三瓶政行
2. 壁,側面構造への適応・・・武田幸治
実践事例:応用動作,応用歩行
1. ドアのすり抜け・・・和氣良彦
2. テーブルの潜り抜け,テーブル周囲の歩行・・・鈴木良尚
3. 車いす乗車と駆動・・・髙橋栄子
4. 「人ごみ」のくぐり抜け・・・古屋実栄
コラム
ちょうちんアンコウ・・・大和田敦
II 洗体・更衣
洗体
総論
洗体・・・永田誠一
実践事例
1. 乾布摩擦・・・渡慶次裕治
2. 手洗い・・・下里 綱
3. 足浴・・・長瀨泰範
4. 洗顔・・・吉嶺 浩
更衣
総論
更衣・・・新里順治
実践事例
1. 上衣の更衣・・・松野 豊
2. 下衣の更衣・・・坂本和則
3. 靴,靴下の着脱・・・新垣明利
4. 手袋を使った治療介入・・・塩貝勇太
III アクティビティ
総論
1. リーチング・・・髙須賀秀年
2. アクティビティと情動・・・福澤 至
実践事例:治療補助具の利用,基本的な対象活動
1. グラスプ・リリースにかかわる活動・・・沼田景三
2. ピンチにかかわる活動・・・藤本 弾
3. 棒を使う・・・箭野 豊,髙須賀秀年
4. 新聞紙を使う・・・山口健一
5. ボール,風船を使う・・・串田雄一郎
実践事例:道具操作
刃物を使う・・・白木原法隆
実践事例:創作・表現活動,物の加工
1. 書字・・・立松さゆり
2. 粘土・・・武田真一
3. 絵画・・・関根圭介
IV 食事
総論
食事・・・渡部昭博
実践事例
1. 体幹,頭頸部への介入・・・広渡一隆
2. 顔面,口腔,下顎への介入・・・河野千穂
3. 口腔知覚探索・・・早川美乃里
4. ポジショニングと環境設定・・・水原 寛
5. 目,手,口の協調・・・宮下徹也
6. うがい・・・南部浩志
7. 道具操作(スプーン,箸の活用)・・・山田勝雄
8. 共食・・・山根佳子
コラム
食行動における嗅覚情報・・・箭野 豊
共食へのアプローチ・・・有泉涼太
索引
人間の運動行動と環境適応・・・柏木正好
I 平面適応・移動空間
平面適応
総論
平面適応・・・保谷勝義
実践事例
1. ポジショニング(背臥位,車いす)・・・仲川 仁
2. 寝返りの徒手誘導・・・髙橋啓吾
3. 起き上がりの徒手誘導・・・横内俊弘
4. 臥位におけるシーツの活用(緊張緩和,寝返り,起き上がり)・・・橋本勇也
5. 床上連続動作・・・伊林克法
移動空間
総論
移動空間・・・八児正次
実践事例:空間への適応
1. リーチングと移動(前方,上方,下方へのリーチング)・・・三瓶政行
2. 壁,側面構造への適応・・・武田幸治
実践事例:応用動作,応用歩行
1. ドアのすり抜け・・・和氣良彦
2. テーブルの潜り抜け,テーブル周囲の歩行・・・鈴木良尚
3. 車いす乗車と駆動・・・髙橋栄子
4. 「人ごみ」のくぐり抜け・・・古屋実栄
コラム
ちょうちんアンコウ・・・大和田敦
II 洗体・更衣
洗体
総論
洗体・・・永田誠一
実践事例
1. 乾布摩擦・・・渡慶次裕治
2. 手洗い・・・下里 綱
3. 足浴・・・長瀨泰範
4. 洗顔・・・吉嶺 浩
更衣
総論
更衣・・・新里順治
実践事例
1. 上衣の更衣・・・松野 豊
2. 下衣の更衣・・・坂本和則
3. 靴,靴下の着脱・・・新垣明利
4. 手袋を使った治療介入・・・塩貝勇太
III アクティビティ
総論
1. リーチング・・・髙須賀秀年
2. アクティビティと情動・・・福澤 至
実践事例:治療補助具の利用,基本的な対象活動
1. グラスプ・リリースにかかわる活動・・・沼田景三
2. ピンチにかかわる活動・・・藤本 弾
3. 棒を使う・・・箭野 豊,髙須賀秀年
4. 新聞紙を使う・・・山口健一
5. ボール,風船を使う・・・串田雄一郎
実践事例:道具操作
刃物を使う・・・白木原法隆
実践事例:創作・表現活動,物の加工
1. 書字・・・立松さゆり
2. 粘土・・・武田真一
3. 絵画・・・関根圭介
IV 食事
総論
食事・・・渡部昭博
実践事例
1. 体幹,頭頸部への介入・・・広渡一隆
2. 顔面,口腔,下顎への介入・・・河野千穂
3. 口腔知覚探索・・・早川美乃里
4. ポジショニングと環境設定・・・水原 寛
5. 目,手,口の協調・・・宮下徹也
6. うがい・・・南部浩志
7. 道具操作(スプーン,箸の活用)・・・山田勝雄
8. 共食・・・山根佳子
コラム
食行動における嗅覚情報・・・箭野 豊
共食へのアプローチ・・・有泉涼太
索引
書評
身体と環境の相互作用にいち早く着目し,中枢神経損傷者に対するリハに実践応用してきた実技内容をまとめた一冊
評者:樋口貴広(東京都立大学, 教授)
巧みな運動の原理を理解するためには,運動を「身体の振る舞い」という単位で捉えるのではなく,「身体と環境の相互作用」として捉えるべきだという発想がある。速く走るためには,良いフォームであるか(身体の振る舞い)ということ以上に,正しく地面をとらえているか(身体と環境の相互作用)のほうが直接的なインパクトがあることは,身体と環境の相互作用に着目する意義の好例であろう。本書は,身体と環境の相互作用にいち早く着目し,中枢神経損傷者に対するリハに実践応用してきた,環境適応講習会の実技内容を1冊の本にまとめたものである。
本書は,講習会の中心人物である柏木正好氏による概説から始まる。続けて, 4つのテーマ(平面適応・移動空間,洗体・更衣,アクティビティ,食事)に対するアプローチの総論,ならびに具体的な実践事例が紹介されている。執筆陣は実に46名にも及ぶ。編者者の高橋栄子氏のご努力のもと,これだけ多くの執筆者となっても,本として統一的なメッセージを読み取ることができる。その一方,各執筆者は実践者として多様なケースに携わっており,そうした経験を通してこそ知り得た独自の想いを,丁寧に言葉にしている。各執筆者が示すメッセージの共通性やわずかな差異から,環境適応講習会における重要な理念,ならびに理念を臨床に落とし込むことのリアリティについて,さまざまな情報を得ることができる。
柏木氏は概説において,中枢神経損傷者の問題の一つを, “定型的な姿勢・運動パターンに閉じこもっている”ことと捉えている。そのうえで,固定的な姿勢・運動パターンから脱却させるためには,患者が能動的に環境を探索できる状況をつくり出すべきだと主張している。たとえば,洗体,更衣,食事等でも基本となる,立位・座位・背臥位時における身体と環境の支持面に着目すると,固定的な姿勢・運動パターンの際は支持面が不適応的に狭くなる。この場合,支持面を広げる工夫をセラピストが施すことで,姿勢・運動パターンが変化できる体制を整える。こうすることで,おのずと広い支持面を探索するような動きが引き出され,結果的に自律的・適応的な姿勢・運動パターンへと振る舞いが変化することが想定されている。
変動的・適応的な振る舞いを通して身体と環境とがインタラクションし,最適な状況を探索するという発想は,生態心理学という研究領域の主張でもある。その創始者であるJames J. Gibsonは,動物と環境の相互作用を研究する生態学の発想を導入することで,伝統的な基礎科学の考え方とは著しく異なる運動制御・学習の理論を展開した。柏木氏の概説は,おおむね生態心理学の考え方と類似しており,脳科学・認知科学のような,いわゆる要素還元主義的な基礎科学をエビデンスとするリハビリテーションとは,一定の距離を置いていることがうかがえる。
これに対して,4つのテーマにおける執筆の中には,より柔軟なかたちで,環境適応講習会の考え方を基礎科学の知識に結びつけようとする試みも見受けられる。実際,生態心理学における中心概念であるアフォーダンス(行為の決定にかかわる環境の性質のこと)の知覚は,認知科学領域においても情報処理の一つの要素として組み込まれることも多い。実践を根拠づけ得る基礎研究の模索も,いわば探索的な振る舞いとして,環境適応講習会の今後の発展に寄与するように思われる。このような観点で内容に触れるのも,多くのセラピストが執筆者となっている本書の楽しみ方の一つであろう。
「作業療法ジャーナル」vol.55 no.3(2021年3月号)(三輪書店)より転載
評者:樋口貴広(東京都立大学, 教授)
巧みな運動の原理を理解するためには,運動を「身体の振る舞い」という単位で捉えるのではなく,「身体と環境の相互作用」として捉えるべきだという発想がある。速く走るためには,良いフォームであるか(身体の振る舞い)ということ以上に,正しく地面をとらえているか(身体と環境の相互作用)のほうが直接的なインパクトがあることは,身体と環境の相互作用に着目する意義の好例であろう。本書は,身体と環境の相互作用にいち早く着目し,中枢神経損傷者に対するリハに実践応用してきた,環境適応講習会の実技内容を1冊の本にまとめたものである。
本書は,講習会の中心人物である柏木正好氏による概説から始まる。続けて, 4つのテーマ(平面適応・移動空間,洗体・更衣,アクティビティ,食事)に対するアプローチの総論,ならびに具体的な実践事例が紹介されている。執筆陣は実に46名にも及ぶ。編者者の高橋栄子氏のご努力のもと,これだけ多くの執筆者となっても,本として統一的なメッセージを読み取ることができる。その一方,各執筆者は実践者として多様なケースに携わっており,そうした経験を通してこそ知り得た独自の想いを,丁寧に言葉にしている。各執筆者が示すメッセージの共通性やわずかな差異から,環境適応講習会における重要な理念,ならびに理念を臨床に落とし込むことのリアリティについて,さまざまな情報を得ることができる。
柏木氏は概説において,中枢神経損傷者の問題の一つを, “定型的な姿勢・運動パターンに閉じこもっている”ことと捉えている。そのうえで,固定的な姿勢・運動パターンから脱却させるためには,患者が能動的に環境を探索できる状況をつくり出すべきだと主張している。たとえば,洗体,更衣,食事等でも基本となる,立位・座位・背臥位時における身体と環境の支持面に着目すると,固定的な姿勢・運動パターンの際は支持面が不適応的に狭くなる。この場合,支持面を広げる工夫をセラピストが施すことで,姿勢・運動パターンが変化できる体制を整える。こうすることで,おのずと広い支持面を探索するような動きが引き出され,結果的に自律的・適応的な姿勢・運動パターンへと振る舞いが変化することが想定されている。
変動的・適応的な振る舞いを通して身体と環境とがインタラクションし,最適な状況を探索するという発想は,生態心理学という研究領域の主張でもある。その創始者であるJames J. Gibsonは,動物と環境の相互作用を研究する生態学の発想を導入することで,伝統的な基礎科学の考え方とは著しく異なる運動制御・学習の理論を展開した。柏木氏の概説は,おおむね生態心理学の考え方と類似しており,脳科学・認知科学のような,いわゆる要素還元主義的な基礎科学をエビデンスとするリハビリテーションとは,一定の距離を置いていることがうかがえる。
これに対して,4つのテーマにおける執筆の中には,より柔軟なかたちで,環境適応講習会の考え方を基礎科学の知識に結びつけようとする試みも見受けられる。実際,生態心理学における中心概念であるアフォーダンス(行為の決定にかかわる環境の性質のこと)の知覚は,認知科学領域においても情報処理の一つの要素として組み込まれることも多い。実践を根拠づけ得る基礎研究の模索も,いわば探索的な振る舞いとして,環境適応講習会の今後の発展に寄与するように思われる。このような観点で内容に触れるのも,多くのセラピストが執筆者となっている本書の楽しみ方の一つであろう。
「作業療法ジャーナル」vol.55 no.3(2021年3月号)(三輪書店)より転載
【編著】髙橋栄子
【著】柏木正好、他 環境適応講習会講師陣