無料データをそのまま3Dプリント 作業に出会える道具カタログ/事例集
正誤表
電子版あり
定価:4,400円(本体4,000円+税)
商品コード: ISBN978-4-89590-728-6
内容紹介
無料! 簡単! すぐできる!!
ものづくりのための3Dプリンタガイドブック第2弾!!
第1弾『はじめてでも簡単 ! 3Dプリンタで自助具を作ろう』では3Dプリンタに関わるツールやサイトを満遍なく紹介し、簡単なモデリング方法を含めたツールの使い方など「自分で最初から最後まで作る」方法を紹介した。
今回は「まず出力してみること」に焦点を当て、QRコードからデータを直接ダウンロードしてすぐに出力できるようにした。200を超える暮らしの道具のデータを掲載!カタログから好きな道具を選んで3Dプリントしてみよう。
好きなものを出力するだけでなく、当事者にカタログを見せて「こんな自助具がほしい」とニードを引き出すきっかけとして使用することもできる。実際にセラピストが当事者からヒアリングして自助具を作った過程や3Dモデルデータを活用した事例も多数収録している。
3Dプリンタに慣れると既存のものを出力していくだけでは物足りなくなるかもしれない。そのために、数値を変えるだけでデータ上の物の厚みや大きさを変えられる「パラメトリック・デザイン」のモデルデータも収録している。また、第1弾では実際の道具作りを順を追って紹介しているので、そちらも参考にしてほしい。
一人ひとりに合わせたものづくりが浸透し、生活を便利にする道具が見直されていけば、誰にとっても暮らしやすい社会が実現できるかもしれない。まずはものづくりの参加へ一歩踏み出してみよう。
目次
contents
はじめに
第1部 3Dプリンタについて
3Dプリンタ紹介
出力に必要な道具
3Dプリントの流れ
出力前にやっておくこと
フィラメント紹介
フィラメントの交換
トラブルシューティング/メンテナンス
共有サイトでのデータダウンロード
第2部 暮らしの道具カタログ
暮らしの道具カタログ:ページの見方・使い方
食事
移動
家事
整容・更衣
コミュニケーション
アクティビティ
訓練用具
その他
パラメトリック
第3部 暮らしの道具活用事例集
片手で紙パックドリンクの蓋を開けるための道具
フォアアームピックホルダー
頭の動きでキーボードを打つための道具
こぼさず飲み物を運ぶことができる道具
張り子の胡粉塗りを片手で行うための道具
車いすブレーキ延長レバー
ナースコールスイッチを押しやすくするケース
施設で季節感を感じながら機能向上を図るための道具
缶ビール(350-500ml飲料)用手持ちホルダー
片手が不自由な方のパソコンのキー入力を補助する道具
前腕回内外のリハビリ用具
片手で調理「魔法のまな板」
電動車いす用ジョイスティック
電動ベッドコントローラスイッチのレバー
iPad操作用スイッチグリップホルダー
車いすのブレーキを操作しやすくするための道具
ルーペを適切な高さで保持するための道具
手指の不自由な人のための箸アダプター
ピエゾセンサースイッチの固定台
洗剤などのパウチのキャップを開けるための道具
ペットボトルのキャップを開けるための道具
釘打ち作業の道具(大工作業用)
ベッド上で自分で寝返りができるようになるための道具
牛乳パックを開ける道具
内蓋オープナー
補高インソール
ウオノメを回避して装具のベルトをつけられる円盤
インスリンの注射器を入れるためのスタンド
車いすアームサポート操作のためのピンチ補助具
歩行器のアームレスト部分から上肢の落下を防ぐ道具
四肢麻痺の方が頚部の動きだけで飲水できる道具
低圧持続吸引器のカテーテルを固定する道具
Nintendo Switchが片手で操作できる道具
親指の動きで複数のスイッチが押せる道具
電動車いすの充電器が挿入しやすくなる道具
車いすのフットレストに足を痛みなく乗せられる道具
電動車いすのジョイスティックが操作しやすくなる道具
医療法人財団建和会 補助器具センター
COVID-19 防護具製作プロジェクト
NTT東日本関東病院 作業療法室
かなえるリンク
ファブラボ品川の取り組み①アイデアワークショップ
ファブラボ品川の取り組み②インクルーシブ・メイカソン
コラム
①モデリングソフトについて
②デザインのリミックス
③スイッチについて
④パラメトリック・デザイン
⑤3Dプリンタで製作したものの安全性について
⑥アドヒージョンの使い分け方
⑦外部出力サービスについて
おわりに
暮らしの道具リスト
はじめに
第1部 3Dプリンタについて
3Dプリンタ紹介
出力に必要な道具
3Dプリントの流れ
出力前にやっておくこと
フィラメント紹介
フィラメントの交換
トラブルシューティング/メンテナンス
共有サイトでのデータダウンロード
第2部 暮らしの道具カタログ
暮らしの道具カタログ:ページの見方・使い方
食事
移動
家事
整容・更衣
コミュニケーション
アクティビティ
訓練用具
その他
パラメトリック
第3部 暮らしの道具活用事例集
片手で紙パックドリンクの蓋を開けるための道具
フォアアームピックホルダー
頭の動きでキーボードを打つための道具
こぼさず飲み物を運ぶことができる道具
張り子の胡粉塗りを片手で行うための道具
車いすブレーキ延長レバー
ナースコールスイッチを押しやすくするケース
施設で季節感を感じながら機能向上を図るための道具
缶ビール(350-500ml飲料)用手持ちホルダー
片手が不自由な方のパソコンのキー入力を補助する道具
前腕回内外のリハビリ用具
片手で調理「魔法のまな板」
電動車いす用ジョイスティック
電動ベッドコントローラスイッチのレバー
iPad操作用スイッチグリップホルダー
車いすのブレーキを操作しやすくするための道具
ルーペを適切な高さで保持するための道具
手指の不自由な人のための箸アダプター
ピエゾセンサースイッチの固定台
洗剤などのパウチのキャップを開けるための道具
ペットボトルのキャップを開けるための道具
釘打ち作業の道具(大工作業用)
ベッド上で自分で寝返りができるようになるための道具
牛乳パックを開ける道具
内蓋オープナー
補高インソール
ウオノメを回避して装具のベルトをつけられる円盤
インスリンの注射器を入れるためのスタンド
車いすアームサポート操作のためのピンチ補助具
歩行器のアームレスト部分から上肢の落下を防ぐ道具
四肢麻痺の方が頚部の動きだけで飲水できる道具
低圧持続吸引器のカテーテルを固定する道具
Nintendo Switchが片手で操作できる道具
親指の動きで複数のスイッチが押せる道具
電動車いすの充電器が挿入しやすくなる道具
車いすのフットレストに足を痛みなく乗せられる道具
電動車いすのジョイスティックが操作しやすくなる道具
医療法人財団建和会 補助器具センター
COVID-19 防護具製作プロジェクト
NTT東日本関東病院 作業療法室
かなえるリンク
ファブラボ品川の取り組み①アイデアワークショップ
ファブラボ品川の取り組み②インクルーシブ・メイカソン
コラム
①モデリングソフトについて
②デザインのリミックス
③スイッチについて
④パラメトリック・デザイン
⑤3Dプリンタで製作したものの安全性について
⑥アドヒージョンの使い分け方
⑦外部出力サービスについて
おわりに
暮らしの道具リスト
書評
「道具をつくる道具」を、活かすお手本を見た
評者:上平崇仁(専修大学 ネットワーク情報学部)
林園子氏・濱中直樹氏による「無料データをそのまま3Dプリント 作業に出会える道具カタログ/事例集」(三輪書店)が、2021年6月に出版された。タイトル通り、利用シーンや出力時間で整理され、QRコード経由で実際に使うことができる3Dプリントのデータ集であり、活用事例集である。・・・そう書けば、いわゆる「便利そうな本」に聞こえるかもしれない。ところが、それだけに収まらない独特の深さを持つ本なのである。
作業療法 ✕ 一人ひとりと向き合うデザイン
本書に収録されているさまざまな道具は、作業療法の世界、いわゆるケアやリハビリが必要とされる場で利用されるものが中心となっている。まず、ここで、作業療法で言う「作業」という言葉は、いわゆる単純作業の“作業”とは意味が違うことに注意しておきたい。接点がない人にはあまり知られていないが、作業療法で言う「作業(Occupation)」とは、日常生活とともにある家事、仕事、趣味、遊び、対人交流、休養など、人々が営むさまざまな生活行為と、それに必要な心身の活動を含む概念であり、この言葉のなかには、「できるようになりたいこと」「できる必要があること」「できることが期待されていること」など、一人ひとりに固有の目的や価値までも含まれている。
この作業療法とパーソナルファブリケーション(個人によるものづくり)は、実はものすごく相性がいい。なぜなら、作業療法士たちは、当事者たちの「作業」への〈出会い〉に立ち会い、「作業」を可能にするために道具をつくる。人の行為をつぶさに観察し、一人ひとりと向き合ったデザインを実践するエキスパートでもあるからである。著者の林園子氏は、その相性の良さにいち早く気づき、おそらくいまの日本において、両者をつなぐ可能性をもっとも深く掘り下げている人だ。
著者らが運営するファブラボ品川では、障害の有無に関係なく、誰かの暮らしを便利で楽しくする道具を「自助具」と呼び、その生み出し方を参加する人々とともに実験しつづけている。たしかに、目の前にいる困りごとを抱える当事者自身を「助けている」モノであり、同時に、一人ひとりに合わせたモノを介して、周囲の人々が間接的に「手助けすることを可能にする」モノでもある。
考えてみれば、我々はついつい自分の身体のことを無意識的に捉えがちである。思い通りに動いてくれるのが当たり前だ、と。でも、例えば、なんらかの事情によって片手が使えなくなったとしよう。あなたは、靴紐が結べるだろうか。まな板の上で野菜が切れるだろうか。Nintendo Switchで遊べるだろうか。そんなときにこそ、量産品ではなく、一人ひとりの身体や状況にあわせてパーソナライズされた自助具が必要になる。〈わたしが〉靴紐を結ばずに靴を履くことができる紐靴エイド。〈わたしが〉片手で調理できるように工夫されたまな板。〈わたしが〉Nintendo Switchを片手で楽しく操作できるコントローラー。
それらは決して万人が常に必要とするものではないけれども、必要とする人にはぴったりはまる、そこだけの居場所を感じさせる。作業療法から生まれたものではあっても、決してその世界だけに限定されるものではない。3Dプリンタは、それらを可能にする。デジタルデータを書籍という手段で運ぶことで、これまで届きにくかったところまで拡張されていく。
創造性は周囲の環境によって変化する
本書にまとめられた活用事例は、個人によってものづくりが拡張できることを実証しており、実に素晴らしい。でも、その一方で、違う方向を見れば別の景色が見える。3Dプリンタを始めとしたデジタル工作機器が普及して随分経つけれども、社会の中での裾野は、当初喧伝されたほどには広がっていない気もする。流行りに惹かれて買ってはみたものの、ホコリをかぶってしまっているマシンも多いようだ。この違いは、いったいどういうことなんだろう。
僕は私立大の情報学部で教員をしているので、若い世代のものづくりを見る機会は多いのだが、確かにうちの学部でも3Dプリンタはあまり使われていない。3Dソフトの扱いは複雑だとか、自分でモデリングするのはハードルが高いとか、いろんな理由を見つけることができるだろう。けれども、その理由を考えていけば、現代の社会が抱えるもっと大きな問題点に行きつく。
それは、いまの多くの都市生活者たちが、消費に最適化されすぎ、あまり創造性を必要としない環境の中に生きていることだ。デスクワーク中心の生活では、身体を使わず必要最小限の操作だけですませることができるし、衣食住に必要なだいたいのものはすでに揃えられている。そして100円ショップにいけば、安価な便利グッズや素材が並べられている。負けじとECサイトの方も「安くするから買え」とばかりにどんどんセールを知らせてくる。
改めて見渡してみれば、人々は「消費者」の立場でいることが当たり前になり、既製品の寸法に自分をあわせることに対して、疑いすら持てなくなっている。本当は自分で生活する中で困りごとや違和感を発見することができるはずなのに、それに気がつく順番までいつのまにかすり替わっている。熱心にやっていることは、あふれかえる選択肢から「買うか買わないか」を決めることだけだ。我々はいつから道具を自分でつくれなくなったのだろう?
そんな環境の中で生きていれば、自由自在にモノをつくりだせる装置が近くにあったところで、使い道を見いだせないのは、ある意味当然と言えば当然かもしれない。
「道具を作る道具」を活かすには
逆に、そんな環境に裂け目が生じれば、状況は一変する。思い通りにならない不便さや不自由さに直面したとき、人は本気で道具をつくりはじめる。自分自身の可能性を取り戻すために。あるいは共感する身近な人の力になるために。そんな経験を通して、人は自分自身が周囲をつくり変えていく力を、本来的に持っていることを発見する。創造性は、安定した環境よりも、葛藤をなんとかしようとする中で発揮されるのだ。
そう考えると、3Dプリンタという「道具をつくる道具」が活かせるかどうかは、単独のテクノロジーの使い方の問題ではなく、周囲の状況を含めた関係性を含めて捉えなくてはならないことは明らかだろう。本書に掲載されている道具たちは、「居場所」を持つ。〈場〉をとりまく人々のネットワークとともに在る。それらは、全ての事例に丁寧に記載されたストーリーによって、はっきりと確認できる。そこを見逃してはならない。
さらにいえば、それらは、ちょうど〈あいだ〉に生まれている。困りごとを抱える当事者だけでもなく、ケアの専門家だけでもなく、デザイナーだけでもない。道具、いや「道具をつくる道具」がその境界をつなぎ、異なる領域にいる人々のコラボレーションを新しく生成しているのだ。
本書は、便利な事例/データ集としてだけでなく、可視化されにくいダイナミックな実践的な活動の記録としても読むことができるだろう。それは消費傾向の強まる最近の生活の場とはまさしく対極にあるような、生き生きとした創造が埋め込まれた共同体づくりの優れたお手本となるに違いない。
評者:上平崇仁(専修大学 ネットワーク情報学部)
林園子氏・濱中直樹氏による「無料データをそのまま3Dプリント 作業に出会える道具カタログ/事例集」(三輪書店)が、2021年6月に出版された。タイトル通り、利用シーンや出力時間で整理され、QRコード経由で実際に使うことができる3Dプリントのデータ集であり、活用事例集である。・・・そう書けば、いわゆる「便利そうな本」に聞こえるかもしれない。ところが、それだけに収まらない独特の深さを持つ本なのである。
作業療法 ✕ 一人ひとりと向き合うデザイン
本書に収録されているさまざまな道具は、作業療法の世界、いわゆるケアやリハビリが必要とされる場で利用されるものが中心となっている。まず、ここで、作業療法で言う「作業」という言葉は、いわゆる単純作業の“作業”とは意味が違うことに注意しておきたい。接点がない人にはあまり知られていないが、作業療法で言う「作業(Occupation)」とは、日常生活とともにある家事、仕事、趣味、遊び、対人交流、休養など、人々が営むさまざまな生活行為と、それに必要な心身の活動を含む概念であり、この言葉のなかには、「できるようになりたいこと」「できる必要があること」「できることが期待されていること」など、一人ひとりに固有の目的や価値までも含まれている。
この作業療法とパーソナルファブリケーション(個人によるものづくり)は、実はものすごく相性がいい。なぜなら、作業療法士たちは、当事者たちの「作業」への〈出会い〉に立ち会い、「作業」を可能にするために道具をつくる。人の行為をつぶさに観察し、一人ひとりと向き合ったデザインを実践するエキスパートでもあるからである。著者の林園子氏は、その相性の良さにいち早く気づき、おそらくいまの日本において、両者をつなぐ可能性をもっとも深く掘り下げている人だ。
著者らが運営するファブラボ品川では、障害の有無に関係なく、誰かの暮らしを便利で楽しくする道具を「自助具」と呼び、その生み出し方を参加する人々とともに実験しつづけている。たしかに、目の前にいる困りごとを抱える当事者自身を「助けている」モノであり、同時に、一人ひとりに合わせたモノを介して、周囲の人々が間接的に「手助けすることを可能にする」モノでもある。
考えてみれば、我々はついつい自分の身体のことを無意識的に捉えがちである。思い通りに動いてくれるのが当たり前だ、と。でも、例えば、なんらかの事情によって片手が使えなくなったとしよう。あなたは、靴紐が結べるだろうか。まな板の上で野菜が切れるだろうか。Nintendo Switchで遊べるだろうか。そんなときにこそ、量産品ではなく、一人ひとりの身体や状況にあわせてパーソナライズされた自助具が必要になる。〈わたしが〉靴紐を結ばずに靴を履くことができる紐靴エイド。〈わたしが〉片手で調理できるように工夫されたまな板。〈わたしが〉Nintendo Switchを片手で楽しく操作できるコントローラー。
それらは決して万人が常に必要とするものではないけれども、必要とする人にはぴったりはまる、そこだけの居場所を感じさせる。作業療法から生まれたものではあっても、決してその世界だけに限定されるものではない。3Dプリンタは、それらを可能にする。デジタルデータを書籍という手段で運ぶことで、これまで届きにくかったところまで拡張されていく。
創造性は周囲の環境によって変化する
本書にまとめられた活用事例は、個人によってものづくりが拡張できることを実証しており、実に素晴らしい。でも、その一方で、違う方向を見れば別の景色が見える。3Dプリンタを始めとしたデジタル工作機器が普及して随分経つけれども、社会の中での裾野は、当初喧伝されたほどには広がっていない気もする。流行りに惹かれて買ってはみたものの、ホコリをかぶってしまっているマシンも多いようだ。この違いは、いったいどういうことなんだろう。
僕は私立大の情報学部で教員をしているので、若い世代のものづくりを見る機会は多いのだが、確かにうちの学部でも3Dプリンタはあまり使われていない。3Dソフトの扱いは複雑だとか、自分でモデリングするのはハードルが高いとか、いろんな理由を見つけることができるだろう。けれども、その理由を考えていけば、現代の社会が抱えるもっと大きな問題点に行きつく。
それは、いまの多くの都市生活者たちが、消費に最適化されすぎ、あまり創造性を必要としない環境の中に生きていることだ。デスクワーク中心の生活では、身体を使わず必要最小限の操作だけですませることができるし、衣食住に必要なだいたいのものはすでに揃えられている。そして100円ショップにいけば、安価な便利グッズや素材が並べられている。負けじとECサイトの方も「安くするから買え」とばかりにどんどんセールを知らせてくる。
改めて見渡してみれば、人々は「消費者」の立場でいることが当たり前になり、既製品の寸法に自分をあわせることに対して、疑いすら持てなくなっている。本当は自分で生活する中で困りごとや違和感を発見することができるはずなのに、それに気がつく順番までいつのまにかすり替わっている。熱心にやっていることは、あふれかえる選択肢から「買うか買わないか」を決めることだけだ。我々はいつから道具を自分でつくれなくなったのだろう?
そんな環境の中で生きていれば、自由自在にモノをつくりだせる装置が近くにあったところで、使い道を見いだせないのは、ある意味当然と言えば当然かもしれない。
「道具を作る道具」を活かすには
逆に、そんな環境に裂け目が生じれば、状況は一変する。思い通りにならない不便さや不自由さに直面したとき、人は本気で道具をつくりはじめる。自分自身の可能性を取り戻すために。あるいは共感する身近な人の力になるために。そんな経験を通して、人は自分自身が周囲をつくり変えていく力を、本来的に持っていることを発見する。創造性は、安定した環境よりも、葛藤をなんとかしようとする中で発揮されるのだ。
そう考えると、3Dプリンタという「道具をつくる道具」が活かせるかどうかは、単独のテクノロジーの使い方の問題ではなく、周囲の状況を含めた関係性を含めて捉えなくてはならないことは明らかだろう。本書に掲載されている道具たちは、「居場所」を持つ。〈場〉をとりまく人々のネットワークとともに在る。それらは、全ての事例に丁寧に記載されたストーリーによって、はっきりと確認できる。そこを見逃してはならない。
さらにいえば、それらは、ちょうど〈あいだ〉に生まれている。困りごとを抱える当事者だけでもなく、ケアの専門家だけでもなく、デザイナーだけでもない。道具、いや「道具をつくる道具」がその境界をつなぎ、異なる領域にいる人々のコラボレーションを新しく生成しているのだ。
本書は、便利な事例/データ集としてだけでなく、可視化されにくいダイナミックな実践的な活動の記録としても読むことができるだろう。それは消費傾向の強まる最近の生活の場とはまさしく対極にあるような、生き生きとした創造が埋め込まれた共同体づくりの優れたお手本となるに違いない。
書評
デジタル時代の自助具制作
評者:中村春基(一般社団法人 日本作業療法士協会 会長)
林 園子,濱中直樹両氏による標記の書籍が上梓された.本の帯には,「QRコードのリンク先から3Dデータをダウンロードしてプリントするだけ」,「無料! 簡単! すぐできる!!」,「ものづくりのための3Dプリンタガイドブック第2弾!!」の文字が躍る.また,よく見るとタイトルの下に「A TOOL CATALOGUE FOR MEANINGFUL OCCUPATION」とある.本書が単にものづくりの書籍ではなく,障害のある方々の意味ある作業をいかにして支援するかを命題にしていることがうかがえる.
本書に限らず書籍は「はじめに」を読むのが楽しい.なぜなら,背景や特徴,目的等がコンパクトにまとめられているからである.ご一読をお勧めする.
本書は3部から成り,第1部の「3Dプリンタについて」では,3Dプリンタを活用するために必要な基礎知識が記載してある.いずれも必須であり,頭から最後まで順次読んでほしい.内容としては,3Dプリンタの紹介(各部品の名称),出力に必要な道具(ニッパやスクレイパー,ソフト・アプリ等),3Dプリントの流れ,出力前にやっておくこと,フィラメントの紹介,フィラメントの交換,トラブルシューティング/メンテナンス,共有サイトでのダウンロード(モデリング,デザインのリミックス)等である.繰り返しになるが,この第1部は3Dプリンタ活用の基本的な内容であり必読である.
第2部は「暮らしの道具カタログ」で,巻末にはリストがあり,目的の道具を簡単に探索できる.各品目に,名称,QRコード,フィラメントの種類,DESCRIPTION,POINTが簡素にまとめられている.
第3部の「暮らしの道具活用事例集」では,使用場面をイメージする題名,事例紹介とニーズ,製作で考慮した点,結果,材料,Next Step,サイズが簡素にまとめられ,使用場面の写真も掲載してある.
本書の「おわりに」で重要な視点が述べられている.「デジタル・ファブリケーションによる分散製造」,「平時の準備が有事に役立つ」,「つくる責任,つかう責任」,「自分でつくる―参加の意義と自律」,「ニューノーマルとネクストメイカー」,「“design for”の先,“design with”へ」,「〈作業〉に基づく暮らしのあり方」である.そして,最後に「本書で取り上げた様々な活動に参加することは,人にやってもらう,あるいは誰かが作ったものの対価として金銭で交換することに慣れてしまった暮らしの中で,自身を〈作業〉的に評価しながら自分でやることの意味を確認し続けることである」と締めている.まさに,「自助具」の先には生活があり,それを使う人の社会参加を願う筆者らの想いがうかがえる.
後学のために3Dプリンタを購入し,本書を基に,実際に製品をいくつか製作してみた.まず,3Dプリンタの価格であるが,サイズや使用する材料によりさまざまな種類があるようだ.本書で紹介のものは材料費も含め,4万円ほどで揃えられる.機器の組み立て,設置も説明書を参考に容易に可能であった.第1部の記載内容に沿って作業を進めたが,データのダウンロード,設計図の作成にはインターネット環境が必要である.ベッドのレベリングは「出力前にやっておくこと」の②に記載してあるが,失敗をなくすためには重要である.あとは,3Dプリンタが自動製作するが,ベース部分が剝がれたり,途中でうまく積み上がらないものもあり,はじめは講習会等を受講し,基本的な技術を習得することも必要と感じている.また,完成までの時間も作品により違いがあり,即応性を求められる場合は,事前の対応が必要である.
最後に,私の時代は自助具といえば,原 武郎,古賀唯夫(著)『図説 自助具』(医歯薬出版,1970)がバイブルだった.デジタル化の中,本書はそれに次ぐ,新たな視点でのモノづくりの書である.臨床での活用が進み,学校養成施設,病院,施設に3Dプリンタが揃えられ,次回のカリキュラム改定においては,学校養成施設の必要備品として掲載されたらと祈念している.
「作業療法ジャーナル」vol.55 no.10(2021年9月号)(三輪書店)より転載
評者:中村春基(一般社団法人 日本作業療法士協会 会長)
林 園子,濱中直樹両氏による標記の書籍が上梓された.本の帯には,「QRコードのリンク先から3Dデータをダウンロードしてプリントするだけ」,「無料! 簡単! すぐできる!!」,「ものづくりのための3Dプリンタガイドブック第2弾!!」の文字が躍る.また,よく見るとタイトルの下に「A TOOL CATALOGUE FOR MEANINGFUL OCCUPATION」とある.本書が単にものづくりの書籍ではなく,障害のある方々の意味ある作業をいかにして支援するかを命題にしていることがうかがえる.
本書に限らず書籍は「はじめに」を読むのが楽しい.なぜなら,背景や特徴,目的等がコンパクトにまとめられているからである.ご一読をお勧めする.
本書は3部から成り,第1部の「3Dプリンタについて」では,3Dプリンタを活用するために必要な基礎知識が記載してある.いずれも必須であり,頭から最後まで順次読んでほしい.内容としては,3Dプリンタの紹介(各部品の名称),出力に必要な道具(ニッパやスクレイパー,ソフト・アプリ等),3Dプリントの流れ,出力前にやっておくこと,フィラメントの紹介,フィラメントの交換,トラブルシューティング/メンテナンス,共有サイトでのダウンロード(モデリング,デザインのリミックス)等である.繰り返しになるが,この第1部は3Dプリンタ活用の基本的な内容であり必読である.
第2部は「暮らしの道具カタログ」で,巻末にはリストがあり,目的の道具を簡単に探索できる.各品目に,名称,QRコード,フィラメントの種類,DESCRIPTION,POINTが簡素にまとめられている.
第3部の「暮らしの道具活用事例集」では,使用場面をイメージする題名,事例紹介とニーズ,製作で考慮した点,結果,材料,Next Step,サイズが簡素にまとめられ,使用場面の写真も掲載してある.
本書の「おわりに」で重要な視点が述べられている.「デジタル・ファブリケーションによる分散製造」,「平時の準備が有事に役立つ」,「つくる責任,つかう責任」,「自分でつくる―参加の意義と自律」,「ニューノーマルとネクストメイカー」,「“design for”の先,“design with”へ」,「〈作業〉に基づく暮らしのあり方」である.そして,最後に「本書で取り上げた様々な活動に参加することは,人にやってもらう,あるいは誰かが作ったものの対価として金銭で交換することに慣れてしまった暮らしの中で,自身を〈作業〉的に評価しながら自分でやることの意味を確認し続けることである」と締めている.まさに,「自助具」の先には生活があり,それを使う人の社会参加を願う筆者らの想いがうかがえる.
後学のために3Dプリンタを購入し,本書を基に,実際に製品をいくつか製作してみた.まず,3Dプリンタの価格であるが,サイズや使用する材料によりさまざまな種類があるようだ.本書で紹介のものは材料費も含め,4万円ほどで揃えられる.機器の組み立て,設置も説明書を参考に容易に可能であった.第1部の記載内容に沿って作業を進めたが,データのダウンロード,設計図の作成にはインターネット環境が必要である.ベッドのレベリングは「出力前にやっておくこと」の②に記載してあるが,失敗をなくすためには重要である.あとは,3Dプリンタが自動製作するが,ベース部分が剝がれたり,途中でうまく積み上がらないものもあり,はじめは講習会等を受講し,基本的な技術を習得することも必要と感じている.また,完成までの時間も作品により違いがあり,即応性を求められる場合は,事前の対応が必要である.
最後に,私の時代は自助具といえば,原 武郎,古賀唯夫(著)『図説 自助具』(医歯薬出版,1970)がバイブルだった.デジタル化の中,本書はそれに次ぐ,新たな視点でのモノづくりの書である.臨床での活用が進み,学校養成施設,病院,施設に3Dプリンタが揃えられ,次回のカリキュラム改定においては,学校養成施設の必要備品として掲載されたらと祈念している.
「作業療法ジャーナル」vol.55 no.10(2021年9月号)(三輪書店)より転載
【著】林 園子、濱中直樹
お詫びと訂正【PDF】
書籍の使い方 Shinagawa FabLab (2分27秒)
3Dプリンタでつくる自助具製作Q&A
※外部サイト(note/ファブラボ品川)に移動します。