Whole Person Care 教育編―マインドフルネスにある深い気づきと臨床的調和
内容紹介
マインドフルネスにある臨床的調和を身につけるため、気づきの技能(awareness skills)を習得できる教育書
Whole Person Care (WPC) シリーズ第2弾!
治療と癒しを統合するWhole Person Care(WPC)を教え学ぶためにはどうすればよいか。
「身体が感じていること(身体感覚)」「考えていること(思考)」「心が感じていること(感情)」という意識の3領域で起きていることに気づくこと、これらへ気づきを向けることが肝要で、「マインドフルネスにある臨床的調和」を身につけるためには深い気づきを養うことが秘訣となる。
内受容や外受容にも気づき、決して価値判断せずに、己に起きていることをいったん受け容れると、とるべき応答を自ずと見出すことが可能になる。その技能を習得するために、気づき,苦悩への応答、レジリエンスや癒し等の学びかたをまとめた書籍である。
今この瞬間に注意を向けることでもたらされる「マインドフルネスにある臨床的調和」とはどのようなことか。
己のありようを知ることで、成長が促される一冊である。
目次
第 1 章 序文
第 2 章 全人による教育と学習
第 3 章 講義 1:注意力と深い気づき
第 4 章 講義 2:コミュニケーションにおける調和のとれた態度
第 5 章 講義 3:深い気づきと医療での意思決定
第 6 章 講義 4:臨床的調和
第 7 章 講義 5:レジリエンスの育成
第 8 章 講義 6:苦悩への応答
第 9 章 講義 7:臨床実習以降のマインドフルネスにある臨床的調和の実践
第 10 章 生き生きとした双方向対話型講義の実際
第 11 章 マインドフルネスにある医療実践と優れた医師
第 12 章 コース終了後のレポート:学生の反応
巻末資料
解説
索引
第 2 章 全人による教育と学習
第 3 章 講義 1:注意力と深い気づき
第 4 章 講義 2:コミュニケーションにおける調和のとれた態度
第 5 章 講義 3:深い気づきと医療での意思決定
第 6 章 講義 4:臨床的調和
第 7 章 講義 5:レジリエンスの育成
第 8 章 講義 6:苦悩への応答
第 9 章 講義 7:臨床実習以降のマインドフルネスにある臨床的調和の実践
第 10 章 生き生きとした双方向対話型講義の実際
第 11 章 マインドフルネスにある医療実践と優れた医師
第 12 章 コース終了後のレポート:学生の反応
巻末資料
解説
索引
書評
自身が与える影響について意識下に置く
評者:島﨑寛将(大阪府済生会富田林病院、作業療法士)
私自身の経験として、十分に実践できていたか否かは別として、臨床を通じて常に対象者を中心とした作業療法を展開することを意識し、また、そのことを後輩や若い学生にも伝えてきたつもりである。しかし、臨床のコツ、ポイントといった重要な視点を伝えるのに、知識や技術の伝達とは異なり、勉強会等では伝え切れない部分があることを感じていた。症例紹介等を通じて、介入経過をわかりやすく伝えることができても、その介入の中で患者の様子をどのように感じ取り、どのような手段を使って患者の発言や行動を引き出していたのかはうまく伝えられないこともあった。経験則として語っていたり、聞き手(後輩や学生)のセンスに頼っていたようにも感じる。
本書は、医師に「深い気づきの技能」を教え、「マインドフルネスにある臨床的調和」がとれるよう医師を教育する人のために書かれ、その具体的な教育手法が記されている。
「深い気づき」とは、単に医学的な専門知識や技能が優れているだけでなく、患者の思いや人間性、ちょっとした言動や仕草等から感情にも気づくことができる技能(全人的にみることができる技能)を指す。この技能は、医療者に幅広く求められる技能であり、とりわけ心身両面のリハを専門とするOTには欠かせない技能といえる。これまで、この技能の習得は経験則で語られることが多いが、本書ではその教育方法について具体的に解説されている。単なる経験則では得られない気づきに関する教育は、経験の浅い医師のみならず、経験豊富な医師(OT)の教育にも使用できるものである。
その具体的な実践として、本書では「マインドフルネスにある臨床的調和」という言葉が用いられている。「マインドフルネス」という言葉からは「瞑想」や「リラクセーション」等が連想されることが多いが、本書では集中した注意力等のマインドフルネスの技能を身につけ、それを「自分」、「相手」、「状況」に向けることにより、臨床的調和が得られることを示している。また、マインドフルネスを通じ、その時々の自身の状態や価値観、経験則等を排除し、ありのままの状況やサインに気づくことは、さまざまなバイアスが臨床的調和に関係することを理解し、ヒューマンエラーを防止することにもつながることを伝えている。
「自分」を分析し、自分自身が与える影響について意識下に置くことは、作業療法教育における「自己分析」といった概念にも通じるものがある。OTは、本書で解説しているマインドフルネスの能力を身につけることにより、自身の状態や価値観等さまざまなバイアスに左右されず、「自分」、「相手」、「状況」に集中し、注意力を向け、ありのままの状況やサインに気づけるようことが期待される。
「この人にはこれが大切だ」、「これがこの人にとって大切な作業だ」と、経験則や療法士自身の価値観、思い込み等が先行してしまうと、療法士自身も気がつかないうちにリハが対象者主体であることを見失ってしまいがちであるが、いかなる状態のときにも対象者に向き合う際に、マインドフルネスの能力がOTの強い味方になるだろう。
本書で解説される教育手法がOTの教育においても活用されることを期待したい。
「作業療法ジャーナル」 vol.56 no.6(2022年6月号) (三輪書店)より転載
評者:島﨑寛将(大阪府済生会富田林病院、作業療法士)
私自身の経験として、十分に実践できていたか否かは別として、臨床を通じて常に対象者を中心とした作業療法を展開することを意識し、また、そのことを後輩や若い学生にも伝えてきたつもりである。しかし、臨床のコツ、ポイントといった重要な視点を伝えるのに、知識や技術の伝達とは異なり、勉強会等では伝え切れない部分があることを感じていた。症例紹介等を通じて、介入経過をわかりやすく伝えることができても、その介入の中で患者の様子をどのように感じ取り、どのような手段を使って患者の発言や行動を引き出していたのかはうまく伝えられないこともあった。経験則として語っていたり、聞き手(後輩や学生)のセンスに頼っていたようにも感じる。
本書は、医師に「深い気づきの技能」を教え、「マインドフルネスにある臨床的調和」がとれるよう医師を教育する人のために書かれ、その具体的な教育手法が記されている。
「深い気づき」とは、単に医学的な専門知識や技能が優れているだけでなく、患者の思いや人間性、ちょっとした言動や仕草等から感情にも気づくことができる技能(全人的にみることができる技能)を指す。この技能は、医療者に幅広く求められる技能であり、とりわけ心身両面のリハを専門とするOTには欠かせない技能といえる。これまで、この技能の習得は経験則で語られることが多いが、本書ではその教育方法について具体的に解説されている。単なる経験則では得られない気づきに関する教育は、経験の浅い医師のみならず、経験豊富な医師(OT)の教育にも使用できるものである。
その具体的な実践として、本書では「マインドフルネスにある臨床的調和」という言葉が用いられている。「マインドフルネス」という言葉からは「瞑想」や「リラクセーション」等が連想されることが多いが、本書では集中した注意力等のマインドフルネスの技能を身につけ、それを「自分」、「相手」、「状況」に向けることにより、臨床的調和が得られることを示している。また、マインドフルネスを通じ、その時々の自身の状態や価値観、経験則等を排除し、ありのままの状況やサインに気づくことは、さまざまなバイアスが臨床的調和に関係することを理解し、ヒューマンエラーを防止することにもつながることを伝えている。
「自分」を分析し、自分自身が与える影響について意識下に置くことは、作業療法教育における「自己分析」といった概念にも通じるものがある。OTは、本書で解説しているマインドフルネスの能力を身につけることにより、自身の状態や価値観等さまざまなバイアスに左右されず、「自分」、「相手」、「状況」に集中し、注意力を向け、ありのままの状況やサインに気づけるようことが期待される。
「この人にはこれが大切だ」、「これがこの人にとって大切な作業だ」と、経験則や療法士自身の価値観、思い込み等が先行してしまうと、療法士自身も気がつかないうちにリハが対象者主体であることを見失ってしまいがちであるが、いかなる状態のときにも対象者に向き合う際に、マインドフルネスの能力がOTの強い味方になるだろう。
本書で解説される教育手法がOTの教育においても活用されることを期待したい。
「作業療法ジャーナル」 vol.56 no.6(2022年6月号) (三輪書店)より転載
【著】スティーブン・リーベン
トム・A・ハッチンソン
【監訳】恒藤 暁
【訳】土屋静馬
三好智子