エビデンスに基づくボツリヌス治療 ー上肢・下肢痙縮に対するリハビリテーションの最適化のために
電子版あり
定価:5,280円(本体4,800円+税)
商品コード: ISBN978-4-89590-751-4
内容紹介
ボツリヌス治療+リハビリテーション
適切な痙縮治療とさらなる機能改善を目指すための基礎〜実践的な知識が詰まった一冊!
本書はボツリヌス治療とリハビリテーションによる適切な上肢・下肢の痙縮治療と、さらなる機能改善を目指すために欠かせない理論と実践の知識が詰まった手引書である。
目次
監修の言葉
序
本書で統一している用語
第1章 痙縮とボツリヌス治療の基礎
1-1 痙縮の病態とボツリヌス治療・・・原 寛美
1. 痙縮の病態・生理 2. 誤った神経可塑性と, 末梢における筋の粘弾性増加による痙縮の発現メカニズム 3. 脳卒中後の運動麻痺回復ステージ理論と痙縮の発現時期 4. 脳卒中における痙縮発現時期と頻度 5. 臨床における痙縮の評価法 6. 脳卒中後上肢痙縮・下肢痙縮へのボツリヌス毒素製剤の早期介入と投与の実際
1-2 ボツリヌス治療の基礎・・・向井洋平, 梶 龍兒
1. ボツリヌス毒素 2. 神経毒素成分 3. 無毒成分 4. ボツリヌス毒素製剤 5. B型ボツリヌス毒素製剤 6. ボツリヌス毒素製剤による治療に反応しない症例 7. ボツリヌス毒素製剤の冷蔵もしくは冷凍保存による活性の変化 8. ボツリヌス毒素製剤による痙縮の治療 9. ボツリヌス毒素による治療の実際
1-3 ボツリヌス治療の施注技術と注意点(超音波エコーガイド,筋電針)・・・原 貴敏
1. 施注方法と各注意点 2. 施注方法に関するEBM 3. 施注方法に関するup to date
1-4 痙縮の特徴と投与分配(Wernicke-Mann肢位,握りこぶし,内反尖足,claw toe など)・・・和田義敬, 川手信行
1. 痙縮の特徴 2. A型ボツリヌス毒素製剤の投与部位・投与量の選定
1-5 ボツリヌス治療の反復投与効果および治療計画・・・竹川 徹
1. 脳卒中後の上肢痙縮への反復投与効果および治療計画 2. 脳卒中後の下肢痙縮への反復投与効果および治療計画 3. rTMSとの併用効果および治療計画
第2章 ボツリヌス治療を行う前に知っておきたい知識
2-1 痙縮発生後の関節可動域制限のメカニズム・・・沖田 実
1. 脳血管疾患と関節可動域制限 2. 脳血管疾患にみられる関節可動域制限の病態 3. 関節可動域制限のメカニズム
2-2 痙縮発生後の痛みのメカニズム・・・坂本淳哉
1. 痙縮発生後の痛みの実態 2. 痛みの基礎 3. 痙縮発生後の痛みの発生メカニズム
2-3 上肢ボツリヌス治療に併用する治療機器・・・唐渡弘起
1. ボトムアップアプローチ 2. トップダウンアプローチ:rTMS
2-4 歩行の神経機構・バイオメカニクス・筋電図・・・大畑光司
1. 歩行のバイオメカニクス 2. 歩行の神経機構 3. 歩行調整のメカニズム 4. 片麻痺歩行の特性
2-5 ボツリヌス療法における多職種連携とチームビルディング・・・髙橋忠志, 栗田慎也, 尾花正義
1. ボツリヌス療法とチーム医療 2. 当院のボツリヌス療法の流れ 3. 施注直後のリハビリテーション
第3章 ボツリヌス治療とリハビリテーション
ボツリヌス治療とリハビリテーション文献レビュー・・・原 貴敏
1. 上肢・下肢痙縮に対するリハビリテーション文献レビュー 2. 上肢痙縮に対するリハビリテーション文献レビュー 3. 下肢痙縮に対するリハビリテーション文献レビュー 4. 痙縮に対する体外衝撃波治療(ESWT)の文献レビュー 5. 脳卒中後疼痛に対するボツリヌス療法の文献レビュー 6. まとめ
第4章 下肢に対するボツリヌス療法
4-1 ボツリヌス療法における理学療法・・・髙橋忠志
1. 理学療法評価と施注筋提案 2. ボツリヌス療法における理学療法治療 3. ボツリヌス療法における下肢装具とトレーニング
4-2 ボツリヌス治療と下肢装具脱却へのプロセス・・・島本祐輔
1. 下肢装具脱却に向けたボツリヌス治療計画と評価 2. 下肢装具脱却に向けた当院での取り組み 3. 時期別における下肢装具脱却の考え方
第5章 上肢に対するボツリヌス療法
ボツリヌス療法における作業療法・・・唐渡弘起
1. ボツリヌス療法の流れ 2. 症例提示
第6章 ボツリヌス治療と介護負担軽減
ボツリヌス治療と介護負担軽減(開排制限,手指など衛生管理)・・・勝谷将史
1. 痙縮の影響と頻度 2. 生活への影響の評価 3. 痙縮による介護への影響 4. 介護負担軽減を目的としたボツリヌス治療の戦略 5. ボツリヌス治療における療法士の役割 6. 症例提示
巻末資料
索引
コラム
「自分らしさ」を取り戻すためのボツリヌス療法と下肢装具・・・髙橋あき
痙縮・ボツリヌス治療の啓発活動
・市中在住痙縮者に対するボツリヌス装具運動療法研究会(CORABOSS)・・・勝谷将史
・痙縮の患者・家族会について・・・室谷嘉一
・地域の痙縮患者を救うプロジェクトーJ-BATTERY seminar・・・髙橋忠志, 小磯 寛, 尾花正義
序
本書で統一している用語
第1章 痙縮とボツリヌス治療の基礎
1-1 痙縮の病態とボツリヌス治療・・・原 寛美
1. 痙縮の病態・生理 2. 誤った神経可塑性と, 末梢における筋の粘弾性増加による痙縮の発現メカニズム 3. 脳卒中後の運動麻痺回復ステージ理論と痙縮の発現時期 4. 脳卒中における痙縮発現時期と頻度 5. 臨床における痙縮の評価法 6. 脳卒中後上肢痙縮・下肢痙縮へのボツリヌス毒素製剤の早期介入と投与の実際
1-2 ボツリヌス治療の基礎・・・向井洋平, 梶 龍兒
1. ボツリヌス毒素 2. 神経毒素成分 3. 無毒成分 4. ボツリヌス毒素製剤 5. B型ボツリヌス毒素製剤 6. ボツリヌス毒素製剤による治療に反応しない症例 7. ボツリヌス毒素製剤の冷蔵もしくは冷凍保存による活性の変化 8. ボツリヌス毒素製剤による痙縮の治療 9. ボツリヌス毒素による治療の実際
1-3 ボツリヌス治療の施注技術と注意点(超音波エコーガイド,筋電針)・・・原 貴敏
1. 施注方法と各注意点 2. 施注方法に関するEBM 3. 施注方法に関するup to date
1-4 痙縮の特徴と投与分配(Wernicke-Mann肢位,握りこぶし,内反尖足,claw toe など)・・・和田義敬, 川手信行
1. 痙縮の特徴 2. A型ボツリヌス毒素製剤の投与部位・投与量の選定
1-5 ボツリヌス治療の反復投与効果および治療計画・・・竹川 徹
1. 脳卒中後の上肢痙縮への反復投与効果および治療計画 2. 脳卒中後の下肢痙縮への反復投与効果および治療計画 3. rTMSとの併用効果および治療計画
第2章 ボツリヌス治療を行う前に知っておきたい知識
2-1 痙縮発生後の関節可動域制限のメカニズム・・・沖田 実
1. 脳血管疾患と関節可動域制限 2. 脳血管疾患にみられる関節可動域制限の病態 3. 関節可動域制限のメカニズム
2-2 痙縮発生後の痛みのメカニズム・・・坂本淳哉
1. 痙縮発生後の痛みの実態 2. 痛みの基礎 3. 痙縮発生後の痛みの発生メカニズム
2-3 上肢ボツリヌス治療に併用する治療機器・・・唐渡弘起
1. ボトムアップアプローチ 2. トップダウンアプローチ:rTMS
2-4 歩行の神経機構・バイオメカニクス・筋電図・・・大畑光司
1. 歩行のバイオメカニクス 2. 歩行の神経機構 3. 歩行調整のメカニズム 4. 片麻痺歩行の特性
2-5 ボツリヌス療法における多職種連携とチームビルディング・・・髙橋忠志, 栗田慎也, 尾花正義
1. ボツリヌス療法とチーム医療 2. 当院のボツリヌス療法の流れ 3. 施注直後のリハビリテーション
第3章 ボツリヌス治療とリハビリテーション
ボツリヌス治療とリハビリテーション文献レビュー・・・原 貴敏
1. 上肢・下肢痙縮に対するリハビリテーション文献レビュー 2. 上肢痙縮に対するリハビリテーション文献レビュー 3. 下肢痙縮に対するリハビリテーション文献レビュー 4. 痙縮に対する体外衝撃波治療(ESWT)の文献レビュー 5. 脳卒中後疼痛に対するボツリヌス療法の文献レビュー 6. まとめ
第4章 下肢に対するボツリヌス療法
4-1 ボツリヌス療法における理学療法・・・髙橋忠志
1. 理学療法評価と施注筋提案 2. ボツリヌス療法における理学療法治療 3. ボツリヌス療法における下肢装具とトレーニング
4-2 ボツリヌス治療と下肢装具脱却へのプロセス・・・島本祐輔
1. 下肢装具脱却に向けたボツリヌス治療計画と評価 2. 下肢装具脱却に向けた当院での取り組み 3. 時期別における下肢装具脱却の考え方
第5章 上肢に対するボツリヌス療法
ボツリヌス療法における作業療法・・・唐渡弘起
1. ボツリヌス療法の流れ 2. 症例提示
第6章 ボツリヌス治療と介護負担軽減
ボツリヌス治療と介護負担軽減(開排制限,手指など衛生管理)・・・勝谷将史
1. 痙縮の影響と頻度 2. 生活への影響の評価 3. 痙縮による介護への影響 4. 介護負担軽減を目的としたボツリヌス治療の戦略 5. ボツリヌス治療における療法士の役割 6. 症例提示
巻末資料
索引
コラム
「自分らしさ」を取り戻すためのボツリヌス療法と下肢装具・・・髙橋あき
痙縮・ボツリヌス治療の啓発活動
・市中在住痙縮者に対するボツリヌス装具運動療法研究会(CORABOSS)・・・勝谷将史
・痙縮の患者・家族会について・・・室谷嘉一
・地域の痙縮患者を救うプロジェクトーJ-BATTERY seminar・・・髙橋忠志, 小磯 寛, 尾花正義
書評
本邦のボツリヌス治療の「質の向上」を一気に推し進める座右の書
評者:角田 亘(国際医療福祉大学)
医療・医学のテキストを手にする(購入する)動機なるものは,以下の三つに分けられる.第一は,まったくの初学者が,その分野について一から(ゼロから)学ぶ場合である.第二は,ある程度その分野を経験した者が,さらなるブラッシュアップを決意した場合である.そして第三は,自称(もしくは他薦)でその分野のスペシャリストとなった者が,まだ残されていた弱点(スペシャリストでありながら,実は知らなかった知見)をこっそりと繕うためである.このたび上梓された本書は「ボツリヌス治療」についてであれば,一冊でこれら三つの動機に十分にお応えすることができる.最近流行りの言葉を使うのであれば,二刀流どころか「三刀流」の「ボツリヌス治療のテキスト」が世に登場したわけだ.
上下肢痙縮に対するボツリヌス治療が本邦で始まって以来すでに10年以上が経過し,着実にボツリヌス治療は全国津々浦々にまで広まってきている.つまりは,量(quantity)としては間違いなく発展してきた.そして現時点では,ボツリヌス治療の「さらなる質(quality)の向上」が課題となっている.このような時期に登場した本書が,本邦のボツリヌス治療の「質の向上」を一気に推し進めるものと私は期待する.ボツリヌス治療が新たなステージに進むためには,本書が必読のものとなるような予感がする.
リハビリテーション治療の多くがそうであるように,ボツリヌス治療もチーム医療として行われる.確かにボツリヌス毒素を実際に注射投与するのは医師に他ならないが,その前後を理学療法士や作業療法士などのリハビリテーション科療法士が固めることで,ボツ リヌス治療の効果は最大限にまで高められる.このようなチーム医療のコンセプトを十分に理解して企画されたと思われる本書の執筆陣は,「ボツリヌス治療に長らく携わってきた多職種の先生方」から構成されている.「ボツリヌス治療の経験豊富な医師でしかわからないこと」を医師のみならず療法士も学び,「ボツリヌス治療の経験豊富な療法士でしかわからないこと」を療法士のみならず医師も学ぶ.本書を通じてそれが実現することを私は切望する.
以前にも増して多くの医療・医学のテキストが出版される昨今,いずれのテキストを手に取るべきか(購入すべきか)との悩みが尽きない.しかしながら,最新の情報を広く網羅した本書を「ボツリヌス治療の座右の書」として手元においておけば,他の細かな文献やテキストの必要性が低くなる.「大(本書)は小を兼ねる」のだ.本書をひととおり読み終えた私は,今まで置きためていたボツリヌス治療に関する文献やテキストのいくつかをゴミ箱に捨てた.本書によって,ボツリヌス治療に関する私の知識が劇的に整理され,同時に書類や書籍が散乱していた私の部屋(特に机回り)も少々整理されたことになる.そのようなわけで,本書を著された先生方にあらためて御礼を申し上げる.
「総合リハビリテーション」vol.50 no.9(2022年9月号) (医学書院)より転載
評者:角田 亘(国際医療福祉大学)
医療・医学のテキストを手にする(購入する)動機なるものは,以下の三つに分けられる.第一は,まったくの初学者が,その分野について一から(ゼロから)学ぶ場合である.第二は,ある程度その分野を経験した者が,さらなるブラッシュアップを決意した場合である.そして第三は,自称(もしくは他薦)でその分野のスペシャリストとなった者が,まだ残されていた弱点(スペシャリストでありながら,実は知らなかった知見)をこっそりと繕うためである.このたび上梓された本書は「ボツリヌス治療」についてであれば,一冊でこれら三つの動機に十分にお応えすることができる.最近流行りの言葉を使うのであれば,二刀流どころか「三刀流」の「ボツリヌス治療のテキスト」が世に登場したわけだ.
上下肢痙縮に対するボツリヌス治療が本邦で始まって以来すでに10年以上が経過し,着実にボツリヌス治療は全国津々浦々にまで広まってきている.つまりは,量(quantity)としては間違いなく発展してきた.そして現時点では,ボツリヌス治療の「さらなる質(quality)の向上」が課題となっている.このような時期に登場した本書が,本邦のボツリヌス治療の「質の向上」を一気に推し進めるものと私は期待する.ボツリヌス治療が新たなステージに進むためには,本書が必読のものとなるような予感がする.
リハビリテーション治療の多くがそうであるように,ボツリヌス治療もチーム医療として行われる.確かにボツリヌス毒素を実際に注射投与するのは医師に他ならないが,その前後を理学療法士や作業療法士などのリハビリテーション科療法士が固めることで,ボツ リヌス治療の効果は最大限にまで高められる.このようなチーム医療のコンセプトを十分に理解して企画されたと思われる本書の執筆陣は,「ボツリヌス治療に長らく携わってきた多職種の先生方」から構成されている.「ボツリヌス治療の経験豊富な医師でしかわからないこと」を医師のみならず療法士も学び,「ボツリヌス治療の経験豊富な療法士でしかわからないこと」を療法士のみならず医師も学ぶ.本書を通じてそれが実現することを私は切望する.
以前にも増して多くの医療・医学のテキストが出版される昨今,いずれのテキストを手に取るべきか(購入すべきか)との悩みが尽きない.しかしながら,最新の情報を広く網羅した本書を「ボツリヌス治療の座右の書」として手元においておけば,他の細かな文献やテキストの必要性が低くなる.「大(本書)は小を兼ねる」のだ.本書をひととおり読み終えた私は,今まで置きためていたボツリヌス治療に関する文献やテキストのいくつかをゴミ箱に捨てた.本書によって,ボツリヌス治療に関する私の知識が劇的に整理され,同時に書類や書籍が散乱していた私の部屋(特に机回り)も少々整理されたことになる.そのようなわけで,本書を著された先生方にあらためて御礼を申し上げる.
「総合リハビリテーション」vol.50 no.9(2022年9月号) (医学書院)より転載
書評
医師とセラピストによるリハの核心が詰まった一冊
評者:松田雅弘(順天堂大学)
脳卒中に代表される中枢神経疾患発症後の上肢・下肢の痙縮に対するボツリヌス治療の保険適用は2010年10月に承認され,今は痙縮の治療には欠かせない薬剤である.多くのガイドラインやレビューに,ボツリヌス治療による痙縮の軽減,関節可動域の拡大,歩行能力・ADLの改善の報告がみられる.特に,「脳卒中治療ガイドライン2021」には「脳卒中後の上下肢痙縮を軽減させるために,ボツリヌス毒素療法を行うことが勧められる」(グレードA)として紹介されている.しかし,ボツリヌス治療の機序をよく知らずに痙縮の臨床症状に役立つことを理解しているだけでは,医師による痙縮の治療手段としての理解で終わってしまう.
この書籍は,痙縮の病態理解から関節拘縮や痛みのメカニズム,ボツリヌス治療の医学的基礎に加えて,併用されるリハビリテーション技術,理学療法・作業療法,介護負担軽減まで多岐にわたり収載されている.これはボツリヌス治療にあたる医師だけでなく,専門職全員が知っていてほしい知識であるという編集の先生方の意図が明確な書籍である.しかも,今回は医師とセラピストの共同作業という点も注目すべきである.
ボツリヌス治療による痙縮の軽減は関節の動きの改善に大きく関与する.しかし,痙縮によって生じる筋を含めた軟部組織の短縮や変性・変形(拘縮)の改善には,薬剤の施注だけでなく,リハビリテーションの持続的な実施が必ず必要となる.拡大した関節可動域を維持するために筋の伸張(ストレッチ)が重要となるが,それだけでは軟部組織にしかアプローチしていない.施注後の動きの変化に応じて,リハビリテーションでは適切な運動学習の推進や,筋の線維化に対する筋機能の改善も考慮するべきである.さらに,動きの変化による上下肢の装具の修正など,日常的に使用している補装具を含めた総合的なマネジメントが必要となる.また,反復投与とリハビリテーションの継続による機能改善の効果も重要な点であり,継続的な治療計画とリハビリテーションにこそ,効果を最大限に引き出すコツがある.そのため,ボツリヌス治療は単純な痙縮の改善のみを目標とするにとどまらず,日常的な困りごとに対して目標設定をどのようにするべきかチームで考えておく必要がある.
痙縮治療のマネジメントとして「痙縮管理は複雑な病態であるため,患者・家族と協力して多職種からなるチーム医療を提供する必要がある」と述べられている.ボツリヌス治療の効果を最大限に生かし,対象者の生活を豊かにするため,医師,専門職,家族をチームとした目標設定や評価をもとに,施注後のリハビリテーション,生活を含め,医療と介護の枠を越えた総合的な治療プランのカンファレンスを事前に行うことが必要不可欠である.私たちはチームとなって,対象者の抱えているつらさに加え,その介護者の大変さも聞き取り,対象者の生き生きとした生活を創造,デザインしていく包括的で患者立脚型の治療プランを皆で共有して,ボツリヌス治療を展開していきたい.それこそがリハビリテーションの核心であり,本書はそれが詰まった書籍である.
「理学療法ジャーナル」vol.56 no.9(2022年9月号) (医学書院)より転載
評者:松田雅弘(順天堂大学)
脳卒中に代表される中枢神経疾患発症後の上肢・下肢の痙縮に対するボツリヌス治療の保険適用は2010年10月に承認され,今は痙縮の治療には欠かせない薬剤である.多くのガイドラインやレビューに,ボツリヌス治療による痙縮の軽減,関節可動域の拡大,歩行能力・ADLの改善の報告がみられる.特に,「脳卒中治療ガイドライン2021」には「脳卒中後の上下肢痙縮を軽減させるために,ボツリヌス毒素療法を行うことが勧められる」(グレードA)として紹介されている.しかし,ボツリヌス治療の機序をよく知らずに痙縮の臨床症状に役立つことを理解しているだけでは,医師による痙縮の治療手段としての理解で終わってしまう.
この書籍は,痙縮の病態理解から関節拘縮や痛みのメカニズム,ボツリヌス治療の医学的基礎に加えて,併用されるリハビリテーション技術,理学療法・作業療法,介護負担軽減まで多岐にわたり収載されている.これはボツリヌス治療にあたる医師だけでなく,専門職全員が知っていてほしい知識であるという編集の先生方の意図が明確な書籍である.しかも,今回は医師とセラピストの共同作業という点も注目すべきである.
ボツリヌス治療による痙縮の軽減は関節の動きの改善に大きく関与する.しかし,痙縮によって生じる筋を含めた軟部組織の短縮や変性・変形(拘縮)の改善には,薬剤の施注だけでなく,リハビリテーションの持続的な実施が必ず必要となる.拡大した関節可動域を維持するために筋の伸張(ストレッチ)が重要となるが,それだけでは軟部組織にしかアプローチしていない.施注後の動きの変化に応じて,リハビリテーションでは適切な運動学習の推進や,筋の線維化に対する筋機能の改善も考慮するべきである.さらに,動きの変化による上下肢の装具の修正など,日常的に使用している補装具を含めた総合的なマネジメントが必要となる.また,反復投与とリハビリテーションの継続による機能改善の効果も重要な点であり,継続的な治療計画とリハビリテーションにこそ,効果を最大限に引き出すコツがある.そのため,ボツリヌス治療は単純な痙縮の改善のみを目標とするにとどまらず,日常的な困りごとに対して目標設定をどのようにするべきかチームで考えておく必要がある.
痙縮治療のマネジメントとして「痙縮管理は複雑な病態であるため,患者・家族と協力して多職種からなるチーム医療を提供する必要がある」と述べられている.ボツリヌス治療の効果を最大限に生かし,対象者の生活を豊かにするため,医師,専門職,家族をチームとした目標設定や評価をもとに,施注後のリハビリテーション,生活を含め,医療と介護の枠を越えた総合的な治療プランのカンファレンスを事前に行うことが必要不可欠である.私たちはチームとなって,対象者の抱えているつらさに加え,その介護者の大変さも聞き取り,対象者の生き生きとした生活を創造,デザインしていく包括的で患者立脚型の治療プランを皆で共有して,ボツリヌス治療を展開していきたい.それこそがリハビリテーションの核心であり,本書はそれが詰まった書籍である.
「理学療法ジャーナル」vol.56 no.9(2022年9月号) (医学書院)より転載
書評
ボツリヌス治療のエキスパートが著した上肢・下肢痙縮へ立ち向かう臨床家のための新たなバイブル
評者:田口健介(東京慈恵会医科大学附属柏病院,作業療法士)
「上肢・下肢痙縮に対するリハビリテーションの最適化のために」,これは本書のサブタイトルですが,読者が本書へ期待することを言い表した,まさに最適な表現であると思います.「痙縮」は疼痛や関節拘縮,ADL能力低下等を引き起こす上位ニューロン障害の一つであり,多くの患者と臨床家を悩ませてきました.そのような中,2010年(平成22年)10月に脳卒中等の中枢神経疾患発症後の上肢・下肢痙縮に対するA型ボツリヌス毒素製剤投与が保険適用となり,今日では欠かすことができない治療選択の一つとなっています.しかし,ボツリヌス毒素製剤投与によるボツリヌス治療が,作業療法や理学療法等のリハビリテーション医療を併用することで効果を最大限に発揮することや,その具体的な実践方法については,まだすべての臨床家に十分に周知されているとは言い難い状況です.そのような現状において,本書は“上肢・下肢痙縮に対する最適なリハビリテーションとは”という問いの答えを見いだす手がかりになります.
本書はわが国の痙縮に対するリハビリテーション医療を牽引されてきた安保雅博氏,原 寛美氏,髙橋忠志氏が監修・編集を行い,その他にも多くのボツリヌス治療のエキスパートが執筆にかかわっています.本編は上肢・下肢痙縮治療にかかわるすべての臨床家に有益な内容ですが,私は次のようなニーズをもたれた方々に特に推薦したいと思います.
【ボツリヌス毒素製剤や痙縮の基礎,ボツリヌス治療の戦略を知りたい】
「第1章 痙縮とボツリヌス治療の基礎」,「第2章 ボツリヌス療法を行う前に知っておきたい知識」,「第3章 ボツリヌス治療とリハビリテーション」では,ボツリヌス治療の効果機序や最新のエビデンスを確認することができます.その中でも「第2章」では,「関節可動域制限のメカニズム」や「装具療法」,「経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)」,「歩行のバイオメカニクス」等,ボツリヌス治療の実践に不可欠な知見が豊富に解説されており,治療戦略立案において重要です.
【効果的なボツリヌス療法を知りたい】
ボツリヌス毒素製剤注射は,リハビリテーション科医師が施行するpreconditioningであり,作業療法や理学療法と併用した「ボツリヌス療法」としてこれまで多くの治療実績を蓄積してきました.「第4章 下肢に対するボツリヌス療法」,「第5章 上肢に対するボツリヌス療法」では,最前線で活躍されている執筆者の具体的な実践内容が紹介されています.それぞれに共通していることは,最新のエビデンスを前提に,臨床家の暗黙知になりがちな訓練内容を形式知となるように解説していることです.筋電図,エコー,上肢機能評価等の客観的な評価に基づき,装具療法や電気刺激療法,課題指向型訓練等,訓練選択をする過程が明確に示されています.これらは,それぞれの読者の治療リーズニングをよりよいものへ向上できると思われます.
【地域やチームで痙縮治療を実践したい】
「第6章 ボツリヌス治療と介護負担軽減」では,これまで必要性を感じながらも報告が少なかった地域医療や介護領域でのボツリヌス治療の実際が紹介されています.介護負担軽減の戦略としては,痙縮による開排制限の改善や手指の衛生管理方法が解説されています.また「地域の痙縮患者を救うプロジェクト―J—BATTERY seminar」(コラム掲載)では,ボツリヌス治療をチームで取り組む必要性や,医療機関と地域の臨床家が協力する実際の様子が報告されており,とても貴重であると思われました.
私は,本書を読み,最新のエビデンスや執筆者たちの説得力のある実践報告に触れたことで,上肢・下肢痙縮に対する現状での最適なリハビリテーションのビジョンが明確になり,また新たな展開を迎えつつあることに気づくことができました.本書が痙縮克服に立ち向かう多くの臨床家をさらなる成長へ導き,次なる突破口へ前進させる一冊となることを願っております.
「作業療法ジャーナル」vol.56 no.10(2022年9月号) (三輪書店)より転載
評者:田口健介(東京慈恵会医科大学附属柏病院,作業療法士)
「上肢・下肢痙縮に対するリハビリテーションの最適化のために」,これは本書のサブタイトルですが,読者が本書へ期待することを言い表した,まさに最適な表現であると思います.「痙縮」は疼痛や関節拘縮,ADL能力低下等を引き起こす上位ニューロン障害の一つであり,多くの患者と臨床家を悩ませてきました.そのような中,2010年(平成22年)10月に脳卒中等の中枢神経疾患発症後の上肢・下肢痙縮に対するA型ボツリヌス毒素製剤投与が保険適用となり,今日では欠かすことができない治療選択の一つとなっています.しかし,ボツリヌス毒素製剤投与によるボツリヌス治療が,作業療法や理学療法等のリハビリテーション医療を併用することで効果を最大限に発揮することや,その具体的な実践方法については,まだすべての臨床家に十分に周知されているとは言い難い状況です.そのような現状において,本書は“上肢・下肢痙縮に対する最適なリハビリテーションとは”という問いの答えを見いだす手がかりになります.
本書はわが国の痙縮に対するリハビリテーション医療を牽引されてきた安保雅博氏,原 寛美氏,髙橋忠志氏が監修・編集を行い,その他にも多くのボツリヌス治療のエキスパートが執筆にかかわっています.本編は上肢・下肢痙縮治療にかかわるすべての臨床家に有益な内容ですが,私は次のようなニーズをもたれた方々に特に推薦したいと思います.
【ボツリヌス毒素製剤や痙縮の基礎,ボツリヌス治療の戦略を知りたい】
「第1章 痙縮とボツリヌス治療の基礎」,「第2章 ボツリヌス療法を行う前に知っておきたい知識」,「第3章 ボツリヌス治療とリハビリテーション」では,ボツリヌス治療の効果機序や最新のエビデンスを確認することができます.その中でも「第2章」では,「関節可動域制限のメカニズム」や「装具療法」,「経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)」,「歩行のバイオメカニクス」等,ボツリヌス治療の実践に不可欠な知見が豊富に解説されており,治療戦略立案において重要です.
【効果的なボツリヌス療法を知りたい】
ボツリヌス毒素製剤注射は,リハビリテーション科医師が施行するpreconditioningであり,作業療法や理学療法と併用した「ボツリヌス療法」としてこれまで多くの治療実績を蓄積してきました.「第4章 下肢に対するボツリヌス療法」,「第5章 上肢に対するボツリヌス療法」では,最前線で活躍されている執筆者の具体的な実践内容が紹介されています.それぞれに共通していることは,最新のエビデンスを前提に,臨床家の暗黙知になりがちな訓練内容を形式知となるように解説していることです.筋電図,エコー,上肢機能評価等の客観的な評価に基づき,装具療法や電気刺激療法,課題指向型訓練等,訓練選択をする過程が明確に示されています.これらは,それぞれの読者の治療リーズニングをよりよいものへ向上できると思われます.
【地域やチームで痙縮治療を実践したい】
「第6章 ボツリヌス治療と介護負担軽減」では,これまで必要性を感じながらも報告が少なかった地域医療や介護領域でのボツリヌス治療の実際が紹介されています.介護負担軽減の戦略としては,痙縮による開排制限の改善や手指の衛生管理方法が解説されています.また「地域の痙縮患者を救うプロジェクト―J—BATTERY seminar」(コラム掲載)では,ボツリヌス治療をチームで取り組む必要性や,医療機関と地域の臨床家が協力する実際の様子が報告されており,とても貴重であると思われました.
私は,本書を読み,最新のエビデンスや執筆者たちの説得力のある実践報告に触れたことで,上肢・下肢痙縮に対する現状での最適なリハビリテーションのビジョンが明確になり,また新たな展開を迎えつつあることに気づくことができました.本書が痙縮克服に立ち向かう多くの臨床家をさらなる成長へ導き,次なる突破口へ前進させる一冊となることを願っております.
「作業療法ジャーナル」vol.56 no.10(2022年9月号) (三輪書店)より転載
【監修】安保雅博
【編集】原 寛美、髙橋忠志