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第19回勇気ある経営大賞

近代ボバース概念による正常発達分析-脳性まひの治療示唆

電子版あり

定価:4,950円(本体4,500円+税)

商品コード: ISBN978-4-89590-750-7

B5 / 180頁 / 2022年
【監修】紀伊克昌(森ノ宮病院リハビリテーション部顧問)
【著】金子断行 (目黒総合リハビリサービス代表)
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内容紹介

12カ月8段階の正常発達分析から脳性まひリハビリの糸口を見つけ出す

ヒトには発達のための遺伝的プログラミングが備わっていますが、脳性まひのこどもは、このプログラミングがうまく作動せず、無理に環境へ適応している状態にあります。
本書は、こどもが生まれてから二足直立を獲得するまでの12カ月に焦点をあて、その姿勢コントロールを分析することで、脳性まひのこどもの姿勢制御に必要な要素を導き出し、適切な発達支援に活かすことを目的としています。著者は長年、発達分析から考察したアイディアを脳性まひのこどものリハビリテーションに応用し、一人ひとりの生活スタイルに合わせた環境への適応方法を模索してきました。本書ではそれらの治療のヒントも余すことなく紹介しています。
はじめに、発達分析に必要なポイントを紹介し、次に、こどもの12カ月までの発達を8段階に分けて丁寧に解説。段階ごとに分析し、その時期に必要な治療へのアドバイスを多数紹介しています。
専門用語はコラムとして抜き出して解説を加えているため、初学者でも躊躇なく読み進めることが可能です。また、臨床で役立つテクニックや症例への適応方法を多数の図・写真を用いて紹介しています。脳性まひのこどもに関わるPT、OT、ST、医師などの医療従事者、こどもの家族、また成人疾患の治療者や福祉教育、発達支援事業の関係者にとっても役立つヒントが満載です。



目次

contents

第1章 正常発達概論
 1 正常発達とは
 2 正常発達分析
 3 脳性まひの発達とは

第2章 胎児期の発達

第3章 各段階における正常発達の分析 ―脳性まひの治療示唆
 1 新生児期
 2 生後 1 ~ 2 カ月
 3 生後 3 カ月
 4 生後 4 ~ 5 カ月
 5 生後 6 カ月
 6 生後 7 ~ 8 カ月
 7 生後 9 ~ 10 カ月
 8 生後11 ~ 12 カ月

第4章 発達を促す治療テクニック
 1 乳児への抱っこ
 2 足部構造の育成と下肢感覚の組織化
 3 コアコントロール

第5章 治療の実際
 1 NICU 退院直後の乳児の治療
 2 痙直型四肢麻痺の学童児の治療

索 引

column
[第1章]
◆ 二足直立の概念
◆ 身体各部位の相互作用
◆ 多裂筋,腹横筋,骨盤底筋群の活動
◆ 垂直軸オリエンテーション
◆ 内臓受容器(重力受容器)
◆ 感覚受容器
◆ 姿勢コントロールシステム障害
◆ 脳性まひ児の身体図式
◆ 環境因子
◆ 先行性随伴性姿勢調節とは?
◆ 手の接触性指向反応(CHOR)とは?
◆ 時間的空間的適応とは
◆ 姿勢コントロールの発達は, 移行期となる4段階で特徴づけられる
◆ 脳性まひ児の姿勢コントロール
◆ 姿勢アライメント

[第3章]
◆ 口腔内感覚
◆ 馴化と感作
◆ 参照枠(reference frame)とは
◆ コアスタビリティの重要性
◆ 鰓弓筋からの発生
◆ 咬筋
◆ 脳性まひの原始反射
◆ 母子関係への介入
◆ 愛護的ハンドリング
◆ 新生児期の脳性まひ
◆ 生後1カ月の方向特異性
◆ 脳の全体機能
◆ 3カ月までの脳性まひ児の特徴
◆ 両まひ児の腹臥位
◆ 頭の従重力コントロールの重要性
◆ 視覚と手の協調
◆ ひとまとめパターン(en bloc posture pattern)と方向特異性
◆ 立ち直りと平衡の維持
◆ 協調した安定性の発達が移動へつながる
◆ 質量中心
◆ 「長い手」とは?
◆ 姿勢コントロールの本質
◆ 神経回路の生成
◆ 多裂筋
◆ 片膝立ちと両膝立ち
◆ 抗重力空間への欲求
◆ 姿勢コントロールの統合
◆ サルとヒトの重心線
◆ 垂直軸と二足直立姿勢コントロール
◆ 身体の質量中心(COM)と上肢帯
◆ 二足直立での抗重力筋の筋肉特性
◆ 立位姿勢評価
◆ 二足直立歩行の獲得
◆ 両まひ児の歩行
◆ 不確帯とは
◆ 二足直立機構の破綻と社会適応

治療示唆
◆ 環境への馴化
◆ 抗重力活動を容易にする姿勢の準備
◆ 情緒を安定させるための働きかけ
◆ 過剰刺激からこどもを守る
◆ 哺乳と呼吸のための姿勢コントロール
◆ 骨盤周辺・下肢の支持基底面の知覚
◆ 「指しゃぶり行動」の改善
◆ 両まひ児の発汗コントロール
◆ 3 カ月のこどもへのさまざまな働きかけ
◆ 過緊張を緩和するアプローチ
◆ 下肢の交互性を誘発する
◆ 治療における側臥位の重要性
◆ 空間認識を高める
◆ 両まひ児の「長い手」の育成
◆ 四つ這いによる治療の注意点
◆ 座位の多様性を広げる
◆ 「長い手」の育成
◆ 床面からの知覚を促す
◆ 抗重力活動のためのきっかけ
◆ 中枢性パターン発生器の賦活
◆ 感覚の取り込みに対する援助
◆ エネルギーを使う快感の充実
◆ あらゆる運動に学習を組み込む
◆ 平衡維持のための働きかけ
◆ 全身の垂直伸展を促進する
◆ 脳性まひ児の足底の治療
◆ 振り出しの学習
◆ 手指の自由度を広げる
◆ アテトーゼ児の手の発達
◆ 身体図式を発達させる工夫
◆ 課題設定は段階的に
◆ 二重課題への取り組み


書評

姿勢制御の発達をベースに脳性まひの評価・治療介入を解説
評者:大槻利夫(上伊那生協病院回復期リハビリテーション課,ボバース成人部門上級講習会講師,日本ボバース講習会講師会(JBITA)議長)

ボバース概念を日本に紹介し,発展させてこられた紀伊克昌先生のもとで長期にわたり脳性まひの治療や,セラピストをはじめとするリハビリテーション関係者の指導・育成およびご家族の指導に携わってこられた金子断行氏が,姿勢・運動制御の発達をベースにした近代ボバース概念による脳性まひの評価・治療介入のための解説書を執筆された.

最初,成人分野で働いている私が書評を書くことに戸惑いを感じていたが,本書を読んで納得した.すべての章で,成人分野での中枢神経系に問題を抱える患者の評価,治療介入にもすぐさま用いることができる内容になっている.本書の「序」にある「赤ちゃんが示すパフォーマンスには無駄なものはひとつもない,すべての運動や感覚が次の段階に進む跳躍台であり,二足直立にむけての準備となっている」,これは重力に抗して二足直立を獲得していく治療介入を日々行っている成人分野のセラピストにとっても,患者さんの反応を見ていく際に重要な視点だと考えている.

第1章は正常発達概論の章で,近代のボバース概念をわかりやすく説明してある.小児分野だけでなく,成人分野のセラピストが中枢神経系の病的状態を臨床的に理解するのにもとても役に立つ内容となっている.また重要な用語はコラム欄で丁寧な説明が付けられている.

第2章は胎児期,そして本書の中心となる第3章は,新生児期から生後12カ月までの二足直立獲得のための姿勢・運動制御の発達を解説する章である.コアコントロールの発達と,使わないことによる退化として説明しているところが興味深い.ここでも「用語解説」や「治療示唆」コラムでわかりやすく説明が加えられている.これらから「治療は深く難しいがそれに可能な限りの説明を加え,わかりやすく」,さらに帯紙にもある「脳性まひのこどもに関わるすべての方へ役立つヒント」を,という著者の想いが汲み取れる.

私が大阪府にあるボバース記念病院において成人分野の基礎講習会で紀伊先生からボバース概念を学んだときには,成人の評価・治療介入を学ぶための小児の正常発達の講義,実技練習があった.この章の正常発達の臨床的な説明からは,創始者であるボバース夫妻から紀伊先生へと脈々と続いている日本におけるボバース概念の原点とこれまでの流れを再度確認することができる.

第4章と第5章で展開している治療介入の実際は,どのような環境での講習会や学会であっても可能な限り治療をライブや動画でデモンストレーションする,ボバース概念の最大の特徴を体現している.著者が述べるように,こども一人ひとりに合わせてその時々で最適な治療介入を展開しているので,これらを絵と文章で説明するには多くの制約がある.あえてこれに挑戦しているのはやはりここが一番大事,治療提示があってこそのボバース概念という小児,成人両者に共通しているボバースインストラクターの使命と意気込みを感じる.多くの若いセラピストに読んでいただき「脳性まひに限らず成人分野でもリハビリテーションの糸口を見つけ出す」きっかけになってくれることを願っている.

「理学療法ジャーナル」vol.56 no.11(2022年11月号)(医学書院)より転載


書評

子どもの姿勢・運動制御と感覚運動学習を最適化させ,作業を可能化するために
評者:辻 薫(大阪人間科学大学,作業療法士) 

創始者のベルタ・ボバース先生(PT)から直々にロンドンで学び,日本にボバース概念を導入された紀伊克昌先生(PT)が本書を監修されている.紀伊先生は,2 代目ロンドンボバースセンター所長(故)ジェニファー・ブライス先生(PT),(故)ジュディス・マーレー先生(OT)と共に,脳神経科学の最新知見を基に,最近の周産期医療と脳性まひの臨床像の変化に対応した治療実践に成功し,近代ボバース概念(Current Bobath Concept)へと進化・発展させてくださった.

本書は,紀伊先生によってモデルチェンジされた2014 年以降の「近代ボバース概念小児領域基礎講習会」(日本ボバース研究会HP参照)の正常発達分析の講義と治療実践へ応用するための臨床考察について,大変わかりやすく解説されている.紀伊先生が監修され,著者である講習会インストラクターの金子断行先生(PT)が,図や写真を豊富に取り入れ,NICU 退院後の乳児や痙直型四肢麻痺学童児の治療場面も具体的に紹介し,すぐに役立つ治療モデルやテクニックだけでなく,多くの文献からその理論的根拠を引用・参照し,説得力のある専門書として成立させている.

一方,「近代ボバース概念とそれに基づく正常発達分析」に,本書で初めて出会う方々も,本文で説明されている多くの専門用語が,すぐにコラムとして抜き出され丁寧に解説されているため,混乱したり躊躇したりすることなく読み進めていくことができる.

近代ボバース概念が説明する,「なぜ」そのように発達するのか,「どうしたら」次の発達につながるのか,姿勢・運動制御のコンポーネントとヒトの発達との相互作用について,徹底して追及する筆者の熱意と受講者本位の指導者としての経験値が伝わってくる.

正常発達分析の視点は,二足直立歩行と道具や言葉を操作するヒトを対象としたリハ専門職だけでなく,医師,看護師,多職種にも多くの気づきを提供してくれる.そして,何度も繰り返し臨床と照らし合わせ,深く広く学び直していく必要がある.

副題である「脳性まひの治療示唆」は,本文の解説とは別枠で本書の随所に挿入され,貴重な治療アイデアを豊富に提供してくれている.たとえば,発達早期介入時の「情緒を安定させるための働きかけ」や「過剰刺激からこどもを守る」,「『指しゃぶり行動』の改善」等は,育児援助で必ず保護者に伝えたい.また,探索活動を促す「『長い手』の育成」と「手指の自由度を広げる」ことや「座位の多様性を広げる」,「身体図式を発達させる工夫」等は,作業療法にも共通する重要な治療指針となる.

早期産にみられる脳室周囲の損傷や神経システム障害は,運動障害だけでなく視覚,聴覚,辺縁系のシステム障害を起こし,環境からの情報を最適に取り込むことが困難となり,運動と感覚の相互発達に大きく影響を及ぼす.第2 章の「胎児期の発達」で,皮膚や筋の形成の未成熟な状態が詳細に示され,早期産児に含まれる自閉スペクトラム症,注意欠如・多動症,限局性学習症,発達性調運動症等の神経発達症群についても環境適応や活動と参加の困難さの背景要因として関連づけることができる.

胎児期から12 カ月までの正常発達をあらためて学習していただき,子どもの姿勢・運動制御と感覚運動学習を最適化させ,作業を可能化するために本書をぜひお薦めしたい.

「作業療法ジャーナル」vol.56 no.11(2022年10月号)(三輪書店)より転載