ペイシェント・エクスペリエンス─日本の医療を変え、質を高める最新メソッド
内容紹介
医療の質を高め,「患者中心性」の医療サービスを提供するために
医療の質を高め、「患者中心の医療」を提供するにはどうするか。日本の医療機関ではこれまで、患者中心性を評価する手段として患者満足度を用いてきた。
しかし昨今、患者の「経験」を測定する「患者経験価値(PX)」が、欧米を中心に注目されてきている。一人ひとりの患者に最適な医療サービスを提供するために生まれた考え方、PX。
本書は日本初のPX研究・推進団体である日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会によるPXの解説書にして実践集である。
目次
はじめに
第1部 PX・基礎編
第1章 PXとは何か
1. PXの概要・・・安藤 潔
2. PXとPSの比較・・・青木拓也
3. PXM®とは・・・曽我香織
4. CX、EXの定義およびPXとの関係・・・曽我香織
5. 海外におけるPX・・・藤井弘子
6. 日本でPXが必要な理由・・・安藤 潔
第2章 PXを可視化する
HCAHPS日本語版の開発と展開・・・青木拓也
第2部 PX・実践編
第1章 専門領域でのPXサーベイ・・・稲田 雄
第2章 ペイシェントジャーニーマップの作成・・・小坂鎮太郎
第3章 PXを向上させるコーチング・・・出江紳一
第4章 PXサーベイからPDCAを回す
事例1 国立病院機構 九州医療センター・・・西本祐子
事例2 医療法人財団岩井医療財団 稲波脊椎・関節病院・・・古川幸治
第5章 トップがPXを推進する組織づくり
事例1 特定医療法人社団 勝木会 やわたメディカルセンター・・・安田 忍
事例2 国民健康保険 小松市民病院・・・湯野智香子,新多 寿
事例3 株式会社麻生 飯塚病院・・・井村 洋
第6章 PXを組織運営に活かす
事例1 社会医療法人清風會 日本原病院・・・平尾由美
事例2 医療法人メディカルフォース フォース歯科・・・大西達也
事例3 株式会社はぴらい 訪問看護ステーションえにし・・・横山 誠
おわりに
column
1.患者中心の医療・・・安藤 潔
2.コロナ禍におけるPX・・・藤井弘子
3.日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会の活動・・・曽我香織
4.デザイン思考とPX・・・出江紳一
5.PXの推進役「PXE」とは?・・・安藤 潔
6.在宅診療におけるPX・・・講内源太
本書で使用する主な略語一覧
PX関連用語索引
第1部 PX・基礎編
第1章 PXとは何か
1. PXの概要・・・安藤 潔
2. PXとPSの比較・・・青木拓也
3. PXM®とは・・・曽我香織
4. CX、EXの定義およびPXとの関係・・・曽我香織
5. 海外におけるPX・・・藤井弘子
6. 日本でPXが必要な理由・・・安藤 潔
第2章 PXを可視化する
HCAHPS日本語版の開発と展開・・・青木拓也
第2部 PX・実践編
第1章 専門領域でのPXサーベイ・・・稲田 雄
第2章 ペイシェントジャーニーマップの作成・・・小坂鎮太郎
第3章 PXを向上させるコーチング・・・出江紳一
第4章 PXサーベイからPDCAを回す
事例1 国立病院機構 九州医療センター・・・西本祐子
事例2 医療法人財団岩井医療財団 稲波脊椎・関節病院・・・古川幸治
第5章 トップがPXを推進する組織づくり
事例1 特定医療法人社団 勝木会 やわたメディカルセンター・・・安田 忍
事例2 国民健康保険 小松市民病院・・・湯野智香子,新多 寿
事例3 株式会社麻生 飯塚病院・・・井村 洋
第6章 PXを組織運営に活かす
事例1 社会医療法人清風會 日本原病院・・・平尾由美
事例2 医療法人メディカルフォース フォース歯科・・・大西達也
事例3 株式会社はぴらい 訪問看護ステーションえにし・・・横山 誠
おわりに
column
1.患者中心の医療・・・安藤 潔
2.コロナ禍におけるPX・・・藤井弘子
3.日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会の活動・・・曽我香織
4.デザイン思考とPX・・・出江紳一
5.PXの推進役「PXE」とは?・・・安藤 潔
6.在宅診療におけるPX・・・講内源太
本書で使用する主な略語一覧
PX関連用語索引
書評
評者:村山幸照(社会医療法人財団慈泉会 本部 経営戦略部、統括副部長)
近年では、多くの医療機関等で患者満足度(ペイシェント・サティスファクション:PS)の調査が行われており、その分析結果を医療の質の改善に役立てているところは多いと推測します。一方、本書で取り上げている患者経験価値(ペイシェント・エクスペリエンス:PX)は、患者満足度と同義語のようで実は明確に意味は異なります。本書では、この患者満足度とPX の違いを多角的視点からわかりやすく解説するとともに、われわれ職員の従業員経験価値(エンプロイー・エクスペリエンス:EX)とPX との関係や、実際にPX を向上させていくための3段階のプロセスであるPX マネジメント(PXM®)の具体例を紹介しています。また、PX 尺度を使用したPX サーベイによるPX の量的な可視化と、医療の質の改善活動の土台となるペイシェントジャーニーマップの作成に加え、PX を向上させるための具体的なコーチングの方法も明記されています。さらに、PX 向上に向けて組織的に改善活動を行っている国内の8 つの医療機関等の実践例も、詳しく紹介しています。
これからの医療の質の指標は患者満足度のみならず、もっとPXに注視する必要があると小生は考えています。その理由は、便益遅延性の影響です。
一般的には、医療はサービス業といわれています。「サービス」には、生産と消費が同時に行われることにより、サービス終了とともに便益を享受できるという特徴があります。しかし、医療や教育サービスにおいては、サービスの終了後、しばらくしてから便益がもたらされることがあります。これを、便益遅延性といいます。たとえば、「あのときはよさを感じなかったけど、今思えばあのときの医療、あるいは教育を受けていたことがよかったと感じる」等の経験がそれに当たります。
この文脈で考えると、サービスの「終了時」の患者の主体的な満足度を可視化する「アウトカム指標」の患者満足度は、医療の質の改善に活用する指標としては、その妥当性に疑問が残るのではないかと小生は感じます。その意味で、患者の具体時な「経験」を可視化する「プロセス指標」のPXを注視することは、医療の質を可視化するうえで極めて有用であると感じます。現に、PX は医療の質の指標と正の相関があり、アドヒアランスやセルフマネジメント、受療行動といった患者行動に影響を及ぼすことも報告されています。
一方、さまざまな場面で多用される「医療の質」という表現は抽象的です。医療の質には、①安全性、②有効性、③患者中心性、④適時性、⑤効率性、⑥公正性といった6 つの指標があり、PX はそのうちの「患者中心性」の指標です。本書では、医療の質における各指標の概略もわかりやすく整理されているため、改善活動を行う中で、医療の質を構造的にイメージしながら行うことに役立つと感じます。
PX に焦点を絞って整理した書籍や雑誌は、本邦はいまだ少ない現状があります。しかし、PX は海外で誕生して約40 年の歴史があり、世界各国でさまざまな研究が行われ、すでに多くのことが明らかになっています。本書の価値は、単にPX の紹介や方法に限局したものではなく、すでに明らかとなっている海外でのPX 研究の結果を根拠として、論理的に整理されている点にあります。また、初学者にとって抵抗感を感じさせないコンパクトさも、本書の魅力の一つです。
国家資格を有する医療職にとどまらず、医療機関に勤務するすべての人が本書を手に取って学ぶことで、本邦の医療はさらに患者視点かつ従業員経験価値の高いものに変われるのではないかと期待できる書籍です。
「作業療法ジャーナル」vol.58 no.4(2024年4月号)(三輪書店)より転載
近年では、多くの医療機関等で患者満足度(ペイシェント・サティスファクション:PS)の調査が行われており、その分析結果を医療の質の改善に役立てているところは多いと推測します。一方、本書で取り上げている患者経験価値(ペイシェント・エクスペリエンス:PX)は、患者満足度と同義語のようで実は明確に意味は異なります。本書では、この患者満足度とPX の違いを多角的視点からわかりやすく解説するとともに、われわれ職員の従業員経験価値(エンプロイー・エクスペリエンス:EX)とPX との関係や、実際にPX を向上させていくための3段階のプロセスであるPX マネジメント(PXM®)の具体例を紹介しています。また、PX 尺度を使用したPX サーベイによるPX の量的な可視化と、医療の質の改善活動の土台となるペイシェントジャーニーマップの作成に加え、PX を向上させるための具体的なコーチングの方法も明記されています。さらに、PX 向上に向けて組織的に改善活動を行っている国内の8 つの医療機関等の実践例も、詳しく紹介しています。
これからの医療の質の指標は患者満足度のみならず、もっとPXに注視する必要があると小生は考えています。その理由は、便益遅延性の影響です。
一般的には、医療はサービス業といわれています。「サービス」には、生産と消費が同時に行われることにより、サービス終了とともに便益を享受できるという特徴があります。しかし、医療や教育サービスにおいては、サービスの終了後、しばらくしてから便益がもたらされることがあります。これを、便益遅延性といいます。たとえば、「あのときはよさを感じなかったけど、今思えばあのときの医療、あるいは教育を受けていたことがよかったと感じる」等の経験がそれに当たります。
この文脈で考えると、サービスの「終了時」の患者の主体的な満足度を可視化する「アウトカム指標」の患者満足度は、医療の質の改善に活用する指標としては、その妥当性に疑問が残るのではないかと小生は感じます。その意味で、患者の具体時な「経験」を可視化する「プロセス指標」のPXを注視することは、医療の質を可視化するうえで極めて有用であると感じます。現に、PX は医療の質の指標と正の相関があり、アドヒアランスやセルフマネジメント、受療行動といった患者行動に影響を及ぼすことも報告されています。
一方、さまざまな場面で多用される「医療の質」という表現は抽象的です。医療の質には、①安全性、②有効性、③患者中心性、④適時性、⑤効率性、⑥公正性といった6 つの指標があり、PX はそのうちの「患者中心性」の指標です。本書では、医療の質における各指標の概略もわかりやすく整理されているため、改善活動を行う中で、医療の質を構造的にイメージしながら行うことに役立つと感じます。
PX に焦点を絞って整理した書籍や雑誌は、本邦はいまだ少ない現状があります。しかし、PX は海外で誕生して約40 年の歴史があり、世界各国でさまざまな研究が行われ、すでに多くのことが明らかになっています。本書の価値は、単にPX の紹介や方法に限局したものではなく、すでに明らかとなっている海外でのPX 研究の結果を根拠として、論理的に整理されている点にあります。また、初学者にとって抵抗感を感じさせないコンパクトさも、本書の魅力の一つです。
国家資格を有する医療職にとどまらず、医療機関に勤務するすべての人が本書を手に取って学ぶことで、本邦の医療はさらに患者視点かつ従業員経験価値の高いものに変われるのではないかと期待できる書籍です。
「作業療法ジャーナル」vol.58 no.4(2024年4月号)(三輪書店)より転載
【著】一般社団法人日本ペイシェント・エクスペリエンス研究会