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第19回勇気ある経営大賞

研修医・医学生・看護師のための臨床力がアップする病理解剖活用術

電子版あり

定価:5,280円(本体4,800円+税)

商品コード: ISBN978-4-89590-800-9

B5 / 270頁 / 2024年
【著】田村浩一
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内容紹介

謎解きのボーケン(剖検)で手に入れる,ワンランク上の診断力!

現実の患者の経過は決して教科書通りにはいかない。快方に向かうのは一本道ではなく、入り込むと死に至るような枝道もある。治療経過は順調だったのに、思わぬ事で足を掬われたりもするのは多くの臨床医が経験している。
病理解剖の目的は単純な死因解明だけではなく、症例が経過中の何時、なぜ死に至る枝道に入り込んだのか、それを防ぐ手立てはなかったのかを探る「謎解き」でもある。
本書は臨床病理カンファレンス(CPC)の流れを踏まえながら、厳選した17例の剖検症例について、臨床経過と剖検所見が提示されている。これは病理による「診断当てクイズ」ではなく、病理解剖で何がわかるのか、その範囲と限界を知り、剖検例からいかに学び臨床力を高めることができるかを知るための書である。
病理医が様々な臓器の所見を基にどのように臨床上の謎に迫るかの解説があり、17症例だけで、病態について多くの知識を得ることができるだろう。
各症例で、臨床経過から考えられた病態のフローチャートと、剖検結果を元にしたフローチャートが対比できるように示されており、実例にそった病態関連図の組立て方を学ぶこともできる。
さらに、知っておくと役に立つ病理解剖に関する知識について第Ⅰ章でまとめるとともに、遺族のための病理解剖という視点を第Ⅲ章で提示してある。
今まで医療の発展のためとばかり言われてきた病理解剖の新たな視点を提示した、いままでにない病理本である。


目次

第Ⅰ章 いざという時に役に立つ、病理解剖についての知識
知っておきたい12のポイント
 1.臨床研修の中での病理解剖との関わりは?
 2.病理解剖の目的は、と聞かれたら?
 3.病理解剖を行うための条件は?
 4.条件を全て満たしているのに、病理解剖できないのは?
 5.病理解剖の遺族への依頼のしかたは?
 6.病理解剖承諾書とは?
 7.承諾を得る相手の「遺族」とは?
 8.日本病理剖検輯報って国が出版している刊行物なの?
 9.病理解剖診断書の書き方に決まりがあるの?
 10.取り出した臓器は誰のもの?
 11.病理解剖を行った時の死亡診断書の書き方は変わるの?
 12.遺体相手だから感染対策は不要か?

第Ⅱ章 剖検症例
A 入院中の突然死 ― 入院中の予期せぬ突然死:病理解剖でどこまで死因を明らかにできるか?
 症例A-1 食道穿孔の手術後4日目に突然死した80代男性
 症例A-2 発熱の精査で入院、甲状腺炎クリーゼの加療中に突然死した70代男性
 症例A-3 ネフローゼ症候群の精査中に突然心肺停止に陥った40代男性
B 希少疾患 ― 病理解剖で初めて明らかとなった疾患とは?
 症例B-1 前立腺生検ではわからなかった希少疾患
 症例B-2 謎の感染症で腸管が次々壊死
 症例B-3 剖検で見つかった新たな疾患
C 剖検で解けた謎 ― 臨床的に謎が残った症例を剖検する意味は?
 症例C-1 多発性骨髄腫の経過観察中、急性心不全を発症した原因は?
 症例C-2 肺癌術後の経過中に急性心不全を発症した原因は?
 症例C-3 進行胃癌で突然の大出血にて死亡した原因は?
D 予想外の剖検結果 ― 病理解剖で明らかになった、予想もしなかった病態とは?
 症例D-1 肺癌術後の多発脳梗塞
 症例D-2 認知症患者の下痢と発熱
 症例D-3 白血病を背景とした肺炎、縦隔炎?
E 剖検で新たな謎が ― 剖検の結果から生まれた新たな謎とは?
 症例E-1 膵頭部癌術後、肺動脈血栓塞栓症で死亡した症例
 症例E-2 膵癌浸潤に対する十二指腸ステント挿入後の突然死
 症例E-3 大腸癌の多発転移で死亡した症例
F CPCの討議で病理診断を変更 ― CPUでの討議が、正しい病理診断の役にも立つ
 症例F-1 早期胃癌術後の多発転移性腫瘍
 症例F-2 膵癌、肝膿瘍→肝転移巣壊死

第Ⅲ章 遺族にとっての病理解剖の意義
 ①遺族の思い
 ②剖検結果の説明の現状
 ③病理医による剖検結果の説明の経験
 ④心に残った遺族のことば
 ⑤剖検結果の説明を希望された理由
 ⑥遺族のグリーフケアに通じる剖検結果
 ⑦おわりに

コラム
 臨床研修制度によって変わったCPCの対象例
 病理解剖にかかる時間
 学生CPC指導の想い出
 病理解剖の術式
 おかあさん、ぼうけんに行ってくる
 ホルマリンで臓器の色が変わる
 剖検例の切り出し
 制限解剖:検索臓器の制限と、切開制限
 ネクロプシーとは
 病理解剖所見の記載
 高齢者の剖検
 忘れられないCPC
 この状態になるまで生きていた!
 痰詰まりは医療過誤か?
 肉眼診断の不確かさ
 死因とは
 真夜中の解剖
 標本作成の順番
 遺跡の発掘と病理解剖
 顔を元通りに~遺族の願い
 叶えられぬ夢
 緩和医療と病理解剖

おわりに
付表
 ・臓器の正常重量の目安
 ・検査の基準値
索引

書評

研修医、医学生、看護師のみならず、臨床検査に関わる医師、メディカルスタッフに手に取っていただきたい一冊
評者:長嶋洋治(東京女子医科大学 病理診断科 教授)

 田村浩一先生の著書「研修医・医学生・看護師のための臨床力がアップする病理解剖活用術」の「書評」執筆を仰せつかった。モダンメディア編集員として、身が引き締まる思いの私の初仕事である。
 医療での、病理解剖の重要性は論を待たないが、最近は症例数が激減している。さらに本書のp113のコラム「高齢者の剖検」にあるが、多疾患に治療効果の修飾も加わって、複雑に交絡あるいは独立して存在する症例も多い。病理医は曼荼羅か鳥獣戯画のごとき病態絵巻を読み解かねばならない。
 本書では教訓的で示唆に富む病理解剖例が臨床歴、検査所見、マクロ、ミクロ所見、病態考察の構成で多数提示されている。初期研修修了要件であるCPC*レポートの模範として研修医に提示したい。医学部高学年では、授業「学生CPC」を行っているが、教材として有用である。さらに、看護師のみならずメディカルスタッフには手に取っていただき、病理解剖で多くのことがわかり、医療に活かされていくことを感じてほしい。
 今後は院内CPCへの臨床検査関係者の一層の参入が求められる。本書でも検査値が各症例の臨床歴の後に掲載されている。こうしたデータを通り一遍に読んでいることが反省される。一点だけを取り上げて値の高下を論ずるのはいかがなものか、と考える。臨床検査医学会では検査値から病態を推測するR-CPCが行われているが、こうしたディスカッションを病理解剖所見(もし患者さんが不幸にして死亡された場合には)と組み合わせて多職種のカンファランスができればいいと考える。
 本書では肉眼写真がきれいに撮影されており、病態がよくわかる。本書掲載の症例の多くは心臓に問題があり死亡したものが多い。心臓というと虚血性心疾患、弁膜症はまだしも、不整脈死となると形態的に分かりにくく、迷宮入りのにおいが漂う。そうした症例も丁寧に検索し、病態に肉迫しようとする田村先生の熱意が感じられ、大いに見習うべきと感じ入った。研修医、医学生、看護師のみならず、臨床検査に関わる医師、メディカルスタッフに本書を手に取っていただきたいと考える。
 田村浩一先生と知り合ったのは病理学会ではなく、医学教育学会であった。当時、医学教育の重要性が叫ばれ、基礎と臨床の懸け橋としての病理学教育のあり方を模索し、医学教育学会に多くの病理医が参加された、その一人であった。先生には多くの教えをいただいた。先生は早くから病理外来を開設されており、患者さんやそのご家族との接点を持たれていた。病理転向以前の外科医としてのキャリアも相まって、本書にも病理愛、医学愛、患者愛が詰まっているように思われる。
 かなり前になるが、春爛漫の候、田村先生ご勤務の東京逓信病院にお招きいただき、病院前の桜をめでた後、神楽坂の隠れ家風の店で一献傾けたことを懐かしく思い出す。先生には、また、こうした機会をいただければこの上ない幸せである。

*Clinico-pathological conference: 臨床病理カンファレンス

「モダンメディア」70巻7月号(2024年7月号)(栄研化学)より転載