マリアンヌ先生のダウン症のある子どもたちの手の器用さを育てるガイド 日常生活で楽しく取り入れる活動BOOK 原著第3版
定価:5,280円(本体4,800円+税)
商品コード: ISBN978-4-89590-831-3
内容紹介
ダウン症のある子のインクルーシブな療育・教育・生活支援のために0歳からできること
バイブル書となった『ウィンダーズ先生のダウン症のある子どものための身体づくりガイド』(三輪書店、2020年刊)に続く、ダウン症のある子どものための療育本 第2弾!
本書は、経験豊富な世界屈指の作業療法士による、ダウン症のある幼児から10代、成人の方までを対象とした、遊び、学業、日常生活に必要なスキルを発達させるための実用ガイドブックです。
身だしなみを行う、図形や字を書く、ハサミを使う、家事を行う、趣味を楽しむ、コンピュータ・アプリを活用するなどの、微細運動を伴う日常生活スキルを身につけるためには、0歳からその基盤(土台)となる要素である安定性、両手の協調性、感覚を育てることが重要であることを家づくりに例えた「家モデル」を使って、わかりやすく解説しています。そして、その基盤作りとして日常生活に組み入れることができる遊びや練習活動、基盤をもとにした具体的なスキルの身につけ方、日常生活や学校・社会的文脈においてこそできるスキルの習得の方略について、ダウン症のある人々が可能性を最大限に引き出せるよう、具体的に、段階的に解説しています。
活動や練習で子どもたちをやる気にさせるためのアドバイスやダウン症の医学的症状が微細運動スキルの習得と発達に与える影響についてまでも記載されており、保護者、教師、療法士の方は、手元に置いておくべき1冊です!字を書くための練習用オリジナルワークシートの付録もついています。
目次
■監訳者の言葉
■謝辞
■はじめにー保護者の立場から
第1章 手指スキルの発達モデル
■微細運動スキルの「家」モデル
■微細運動スキルの3つの土台
●安定性とは
●両手の協調性とは
●感覚とは
●感覚処理とは
■手指スキルの家の第2階層:手指の器用さ
●手指の器用さとは
■手指スキルの家の第3階層:日常生活スキル
●日常生活スキルとは
■自立生活スキルとは
■最後の仕上げをする
第2章 今のレベルから積み上げていく:段階的に学習する
■スキル習得のステップ
●矛盾を受け止める
■モチベーション(動機づけ)
■環境調整
■作業療法士に相談してみましょう
●作業療法士とは
●作業療法士のかかわる支援とは
■子どものことは親が一番よく知っている
第3章 ダウン症児の微細運動の発達
■ダウン症が微細運動能力の発達に与える影響
●身体的特性
ヒポトニア(低緊張)/靭帯・関節の緩み/環軸椎の不安定/短い腕と脚/手の特徴/医学的問題/認知レベル
■子どもの成長に合わせた微細運動スキル
●誕生から2歳まで
●未就学児:2歳~4歳
●5歳~8歳
●9歳~12歳
●10代&成人期:13歳から大人になるまで
■第3章のまとめ
● 年齢・段階ごとの微細運動の発達のまとめ
第4章 ダウン症のある赤ちゃんの初期の動作
■赤ちゃんの初期の腕の動きを発達させる
●仰向け寝・横向き寝と腕の動きの発達
●うつぶせ寝と腕の動きの発達
●寝返りと腕の動きの発達
●お座りと腕の動きの発達
● 手で体を押し上げて四つ這いの姿勢をとる
●腕を使ったつかまり立ちと立位
●姿勢安定サポートの利用
■第4章のまとめ
発達を促すおもちゃリスト
第5章 手のスキルの1つめの土台:安定性
■子どもの安定性を高める
■1.身体の安定性を高める練習
●押す・引く練習
●掘る・すくう・掃く練習
● スカーフ,ストリーマー,バブルワンド遊び
●注ぐ練習
●ボールスキル
■2.肩の安定性を高める練習
●持ち上げて積み重ねる
●ハンマーを使う・叩く
●クライミング
●腕に荷重する練習
●運ぶ練習
発達を促すおもちゃリスト
第6章 手のスキルの2つめの土台:両手の協調性
■子どもはどのようにして両手の協調性を身につけるのでしょうか
■ダウン症のある子どもたちは,なぜ両手の協調性を身につけるのが難しいのでしょうか
●体の安定性が低い
●発達の未熟さ
手の利き手の確立の遅れ
■両手の協調性を高めるためにはどうすればよいでしょうか
●姿勢調整(ポジショニング)を行う
●手を伸ばす・持ち替える・持つ練習
哺乳瓶・コップを持つ/安定性を養う活動
●くっつけたり離したりする遊び
手をたたくゲーム/おもちゃのぶつけ合い/くっつけたり離したりするおもちゃ/スポーツ・レクリエーション活動/粘土遊び
■両手で異なる動作をする協調運動
楽器演奏/本読み/可動部のあるおもちゃ/自助スキル/家事活動/ひも通し/運動とフィットネス練習/紙と鉛筆を使った練習/サラダ用水切りかごを使ったアート
発達を促すおもちゃリスト
第7章 手のスキルの3つ目の土台:感覚
■感覚は微細運動スキルの発達にどう影響するのでしょうか
● 感覚―運動フィードバックとフィードフォワードのループ
■ダウン症のある子どもたちは,どのように感覚を養うのでしょうか
●感覚遊びへの嫌悪感
■子どもの手の感覚認識と識別能力を高める
●感覚認識と感覚識別の練習
Mouthing /マッサージ/リズム・歌/フィーリングゲーム/感覚遊び/シール遊び/財布・リュックサックを使った練習/スカーフを隠すゲーム/モーションセンター付きビデオゲーム/コンピュータマウスの使用
●ヘビーワーク(固有感覚)の練習
押す・引く練習/食料品の片づけ/屋外での遊び・ガーデニング
発達を促すおもちゃリスト
第8章 手指の器用さ
■手指の器用さとは
■1.握りとリリースの発達
● どのように握りとリリースは発達するのでしょうか
握りの発達段階/リリース(手放し)の発達段階
● ダウン症のある子どもの握りとリリースはどのように発達するのでしょうか
握りの発達の特徴/リリース(手放し)の発達の特徴
●握りとリリースの発達を援助する
●握りの練習
おもちゃを握る/力強い手掌握り(パワーグリップ)/持って叩く/容器から物を取り出す/3指握り(橈側手指握り)を促すおもちゃ
●リリース(物を離す動作)の練習
落とす練習/“Give it to Mommy/Daddy”(“パパやママにちょうだい”をする)/物を下に置く練習/物を容器や穴の中に入れる練習/物を積み重ねる練習/パズルをする
■2.つまみと親指のコントロール
●おすすめの練習
手づかみ食べ/小さな物をつまむ/スタッキングカップ(積み重ねカップ)/スロットに挿入する/可動部のあるおもちゃ/手の力をつける活動
■3.指の協調を発達させる
●おすすめの練習
指さしをする・指で突く/感覚活動を行う/ボタンやスイッチを押す/物まね歌と手遊び歌/本を持つ・指さす・めくる/カードゲームをする/ゲームプレイ/家事に参加する/着せ替えゲーム/手の内の操作
■4.手首の動きの発達を促す
●おすすめの練習
遊ぶ・食べる/“Give Me Five”/感覚遊び/粘土・plasticin遊び/イーゼルでお絵かきをする/自助スキルの練習/水筒を使う/家事活動/おもちゃとゲーム/楽器の演奏
■手指の器用さについてのまとめ
発達を促すおもちゃリスト
■ハンディバスケット:用意しておきたいおもちゃと活動
第9章 日常生活スキル:学校で行う課題
[ハサミで切る]
■ダウン症のある子どもたちのハサミで切るスキルはどのように発達するのでしょうか
■ハサミで切るスキルの発達を促す
●おすすめの練習
パペット遊び/はさむ活動/引き裂く活動
●ハサミと紙の選択
ハサミの選択/紙の選択
●ステップ・バイ・ステップで学ぼう
[書く準備に必要なスキル]
■鉛筆を握る
■発達に合わせて鉛筆の握り方を教える
■書字を学ぶための準備をととのえる
●書くための準備を促すスキル
子どもが書く準備のための活動に取り組むタイミングを判断する/書くための概念の発達を促す〔空間的注意と定位/上下の概念/落書き/縦の概念/頂点を教える/横の概念/同じか違うか/左から右へ/下・中間(真ん中)/円/開始・停止/線を組み合わせる(例:十字)〕
● 鉛筆で絵を描く・絵の具で絵を描く・色塗りをする
[文字を書く]
● 書字を学ぶ準備ができているかを見極める
自分の名前を書く
●書字時のポジショニング
●書字の習得プロセス
模倣/トレース(なぞり書き)と模写/お手本なしの書字
●線に沿って書く
●鉛筆の筆圧
[筆記体を書く]
[書字に関する調整と修正]
■筆記者への口述
[コンピュータとテクノロジー]
■教室のスマートテクノロジー
■iPadとタブレット端末
● タブレット端末を利用することによる微細運動への利点
● タブレット端末を使用する際の微細運動の課題
●アクセシビリティ・オプション
■コンピュータへのアクセスと使用方法
●キーボードスキル
●ハードウェア・オプション
キーボード・オプション/マウスとその代用品/トラックパッド/トラックボールとジョイスティック/タッチスクリーンプログラム
● 内蔵されたアクセシビリティ・オプション
●ソフトウェア・オプション
■テクノロジー・オプションのまとめ
[微細運動の目標を子どもの教育プログラムに取り入れる]
■教室における微細運動の目標設定例
発達を促すおもちゃリスト
第10章 日常生活スキルと自立生活スキル
[自助スキル]
■服を着る
● ダウン症児によくある着替えの課題と解決法
ジャケットを着る/ボタンを留める/ファスナーを上げる/靴ひもを結ぶ/左右の靴を正しく履く/服を脱ぐ/靴を履く/靴や靴下を脱いでしまう/服を前後逆に着てしまう
■食べる・飲む
●手づかみ食べ
●スプーンとフォークを使う
●コップで飲む
コップを噛んでしまう/舌を口から出してしまう
●切ること・広げること
●口腔運動コントロール
■身だしなみ
●歯磨き
●トイレトレーニング
●入浴・シャワー
●ヘアケア
●10代の若者と成人のための身だしなみ
[家事]
■子どもが参加できる家事
[余暇活動]
■余暇活動で子どもの微細運動スキルを伸ばす
[自立生活スキル]
発達を促すおもちゃリスト
第11章 感覚処理
■感覚処理とは
■ダウン症における神経発達
●医学的考察
●感覚障害
●発達の遅れ
■感覚処理
●ダウン症のある子どもの感覚処理
●感覚調整
過剰な反応(過敏)/反応が鈍い(低反応)/感覚探求 (感覚刺激を求める)/感覚処理障害の組み合わせ
■感覚処理の問題に対処するための方略
●センソリ―ダイエット(感覚刺激を整理する)
●感覚戦略:環境調整
●気持ちの切り変え
次の課題への移行(気持ちの切り変え)を少しでも楽に行うには
●覚醒度と自己制御能力
ダウン症のある子どもが,注意力を保つために準備する活動
●テクノロジー
●スヌーズレン
■ダウン症と自閉スペクトラム症
■行動学的アプローチ
■第11章のまとめ
発達を促すおもちゃリスト
第12章 両手を上げよう!
■付録1:視覚運動ワークシート
■付録2:捨てないでください! 日用品の活用例
■用語集
■参考文献一覧
■索引
龍円愛梨さん (ダウン症児の母親 東京都議会議員) よりご推薦いただきました
0歳から育む「スキルの土台」がより豊かな人生を支える
米国で経験した専門的で先進的な療育
ダウン症のある我が子ニコが生まれた米国には、スペシャルニーズのある子どもへの支援に関する法律(IDEA)があり、どこに住んでいても質の高い療育が受けられます。生後すぐからPT・OT・ST・摂食指導などの様々な早期療育を毎週受けることで、どのようにニコに関わればいいのかを知ることができ、自信を持って子育てができました。
スキルを0歳から”家を建てる”ように育てる
そんな先進的な米国で出会った作業療法士のマリアンヌ先生の本書は、0歳から高校生までの発達とその支援方法について詳しく解説されていて、ご自身もダウン症のあるサラさんを育てているからこそ、家庭内でのサポート方法が丁寧で分かりやすく、保護者の視線に寄り添っています。印象的なのはスキルを育てる過程を「家を建てること」に例えている点です。基盤を整備して柱を建てなければ家は建たないように、スキルはその前の身体づくりが重要だというのです。この本を読むと、数年先を見通しながらじっくりと発達に向き合っていくことの重要さがわかりました。まだ首も座らないニコを横向きに寝かせて両手を身体の前に持ってきてあげることが、のちに両手を使った作業をしていくための準備になっているなんて、この本を読んでなかったら知ることがなかったと思います。紹介されている全てのステップが、自宅で簡単に実践できるもので、おもちゃ選びやお部屋づくりのヒントにもなりました。
楽しいことがいっぱいの現在のニコ
さて、現在、ニコは11歳です。好きなことがたくさんあり、それらを思いっきり楽しみながら成長しています。マリアンヌ先生が教えてくれた「スキルの土台」を育ててきたことで、様々な可能性が広がっているのを実感しています。着替え・トイレ・歯磨きや身だしなみを整える等の日常生活スキルだけではなく、粘土・ハサミなど様々な道具を使ったアート活動、包丁や菜箸を使ったお料理、タブレットの検索機能を使って調べ学習をしたり、流行りの音楽に合わせたダンスも楽しんでいます。
本書を使って小さい頃からスモールステップで「できた」という成功体験を重ねてきたことから、挑戦することを楽しみ、諦めずに続ける心も育っているようです。驚いたのは1年以上自主練を続け、逆上がりが出来るようになったことです。成功した時の嬉しそうな表情は、忘れられません。プールにも通い続けて、泳げるようになり、今では海でサーフィンや素潜りをするようになりました。
ニコは「身体を使うこと」が好きで、いろんなことに意欲的です。そんな姿を見るにつけ、目を細め、感慨深くなります。一見、他愛もないことのように見えますが、ダウン症があるニコにとっては、0歳から積み重ねてきた療育やサポートのうえにある姿だからです。
療育は人生を支えていく力を作る
ダウン症のある子にとっての療育は、より豊かな遊び・学び・育ちを長い人生に渡って支えていく基盤を作ってあげることなのだと、今は確信をしています。マリアンヌ先生の著書に出会えたことは、私たち親子にとって本当に幸運でした。
真野英寿先生や三輪書店の皆様のご尽力で、翻訳版が出版されることに感激しています。ダウン症があるキャラクターの「ニポとなかまたたち」の素敵なイラストも添えられ、明るい気持ちになる一冊になりました。ダウン症のあるお子さんがいる家族や、療育関係者に広く読んでいただけるよう、心から祈っています。
【監訳】真野英寿(昭和大学江東豊洲病院リハビリテーション科診療科長,準教授)
【訳】太田麻衣(株式会社リニエR 子ども未来事業部 本部長)
東恩納拓也(東京家政大学健康科学部リハビリテーション学科 助教授)
【著】Maryanne Bruni