内容紹介
死という「存在の危機」に直面した人たちが「人間らしい」「その人らしい」生活ができるよう全存在を支え、なおかつ魂の慰めや希望を見つけだせるようなケアを、著者はスピリチュアルケアと定義する。「スピリチュアリティとは何か」「ケアとは何か」、2項の定義から「スピリチュアルケア学」を進め、東西の先達の死生観を検討しつつ、豊富な実際の経験から導き出された枠組みを『学序説』として構築した。患者さん自身、その家族の方々、医療チームスタッフ、それぞれが直面する多様で容易ならざる現実の道標をここに示す。
目次
第1章 スピリチュアルケアの意義
はじめに
第1節 スピリチュアルケアの意義
第2節 医療現場で
第3節 世界保健機関による憲章改定案
第4節 報告書から
第2章 スピリチュアリティの定義
第1節 語源
第2節 スピリットの聖書的理解
第3節 スピリットの多様な解釈
第4節 スピリチュアリティな存在
第5節 スピリチュアリティとは
第3章 スピリチュアリティの性質
第1節 スピリチュアリティの構造
(1) スピリチュアリティの2つの基本要因
1) 「存在の枠組み」―人生の土台・根拠
2) 自己同一性
(2) スピリチュアリティの特性
1) 超合理性・超科学性・超客観性
2) 普遍性
(3) スピリチュアリティの複合的要因
1) 感情的・情緒的要因
2) 哲学的要因
3) 宗教的要因
4) 重層的構造
第2節 スピリチュアリティと「死の危機」
(1) 危機とは何か
(2) 死の危機
(3) 死の危機とスピリチュアリティ
第3節 スピリチュアリティの機能
(1) 苦しみの緩和
(2) 「わたし」の意識化・覚醒化
(3) 存在の意味づけ
(4) 死後の世界を示す
(5) 生命維持の機能
(6) 機能そのものとしてのスピリチュアリティ
第4節 スピリチュアリティ覚醒の背景的要因
(1) 感受性の高揚
(2) 関心の特殊化
(3) 感情、情緒の無制御化
(4) 願望の実現
(5) 自己保存
第5節 具体例にみるスピリチュアリティ
(1) 高見 順(作家)の場合
(2) 青木日出雄(航空ジャーナリスト)の場合
第6節 スピリチュアリティと宗教性との違い
第7節 日本人のスピリチュアリティ
(1) 日本人の思想を探る
1) 鈴木大拙(仏教学者、1870~1966年)―日本的霊性
2) 柳田國男(民俗学者、1875~1962年)―日本人の他界論・死後観
3) 梅原 猛(哲学者、1925年~)―日本人のあの世観
4) 山折哲雄(宗教学者、1931年~)―日本人の宗教性
(2) 日本人のスピリチュアリティ
(3) 日本人のスピリチュアリティの課題
第4章 先行研究にみるスピリチュアリティの理解
はじめに
第1節 医師の研究
(1) シシリー・ソンダース
(2) ドロシイ・C・H・レイ
第2節 看護学的研究
(1) インジ・B・コーレス
(2) リンダ・J・カルペニート
第3節 社会福祉学的研究
(1) ケネス・J・ドカ
第4節 牧会学的研究(実践神学的研究)
(1) チャプレン「白書」
(2) デニス・クラス
(3) ジョージ・フィチット
(4) リチャード・ギルバート
第5節 哲学的研究
ジョン・モーガン
第6節 世界保健機関専門委員会の報告
第7節 スピリチュアルケア研究部会
第8節 日本における研究
第9節 研究のまとめと課題
第5章 スピリチュアルペイン
第1節 スピリチュアルペインとは
(1) スピリチュアルペインの定義
(2) スピリチュアルペインの内容
1) 「わたし」の生きる意味・目的・価値の喪失
2) 苦痛の意味を問う苦しみ
3) 死後への不安
4) 「わたし」の悔い・罪責感
(3) 「スピリチュアルペイン」と「心理的ペイン」との相違点
(4) 「スピリチュアルペイン」と「宗教的ペイン」との相違点
第2節 スピリチュアルペインとスピリチュアリティの覚醒
第3節 闘病記にみるスピリチュアルペイン
(1) 岸本英夫(宗教学者)の場合
(2) 西川喜作(精神科医)の場合
(3) 鴻農周策(NHK放送記者)の場合
(4) まとめ
第6章 スピリチュアルケア
はじめに
第1節 ケアとは何か
(1) ケアの原義
(2) ケアという行為
(3) ケアの中心
1) ケアの中心は人間である
2) 共感的意識
3) 相互依存的関係
4) 患者と医療者の水平な関係
5) 患者と共にあるもの
第2節 スピリチュアルケアがもたらすもの
(1) スピリチュアルケアを受ける側(患者・家族・スタッフなど)
1) 慰め
2) 生きる意欲
3) 生きる意味・目的
4) 将来の希望
5) 罪責感・悔いなどからの解放
(2)スピリチュアルケアを提供する側
1) 深い自己洞察
2) 自己の解放
3) 信じることの重要性
4) 人間の深みの世界に触れる喜び
5) 時間の有限性
6) 生の広がりへの認識
第7章 スピリチュアルケアを必要とする者
第1節 患者
第2節 家族
(1) 患者の闘病中の問題
(2) 家族の役割や責任
(3) 告知
(4) 喪失感
第3節 チームスタッフ
第8章 スピリチュアルケアの実践手順
第1節 スピリチュアルペインの評価と目標の設定
第2節 チームワークの形成
(1) 多様なスピリチュアルニーズに応える
(2) 医師、看護師
第3節 プロセスを認識する
第4節 効果の評価
第9章 スピリチュアルニーズ
はじめに
第1節 言語的表現
第2節 スピリチュアルアセスメント・シート
第10章 スピリチュアルアセスメント
スピリチュアルアセスメントとは
(1) スピリチュアルアセスメント
(2) スピリチュアルアセスメントの目的
(3) スピリチュアルアセスメントの本質的問題
(4) スピリチュアルアセスメントの多様性
(5) アセスメントがもつ問題
(6) 医療現場でのアセスメント
(7) 評価者の拡大
第11章 スピリチュアルペインヘの具体的ケア
はじめに
第1節 傾聴・共感・受容
第2節 ナラティブ・ベースド・メディスン
第3節 自己認識に注目する
第4節 出会いの効果
第5節 自然・文化・芸術によるケア
(1) 自然との出会い
(2) 文化との出会い
(3) 音楽、絵画、童話、絵本などとの出会い
第6節 宗教によるケア
第7節 夢の解釈によるケア
第12章 対話の構造
第1節 患者とケア・プロヴァイダーの距離
第2節 患者とケア・プロヴァイダーの間にあるもの
(1) 信頼
(2) 尊敬
(3) 優しさ、労り、思いやり
第3節 同伴者としてのケア・プロヴァイダー
(1) 共に歩む
(2) 医療の役割を果たす
(3) 感情の共有
第13章 スピリチュアルケア・プロヴァイダー
はじめに
第1節 スピリチュアルケア・プロヴァイダーに求められるもの
(1) 積極的死生観
(2) スピリチュアルな感性
(3) 人格的豊かさ
第2節 ケア・プロヴァイダーの役割
(1) 家族
(2) 友人、ボランティア
(3) 看護師
(4) 医師
(5) チャプレン(病院付牧師)
1) チャプレンの存在意義
2) ケアの留意点
第14章 チャプレンの教育プログラム
第1節 歴史的背景
第2節 CPEの基本理念
(1) 人間観
(2) 生の無条件肯定
(3) 積極的死生観
(4) 愛
(5) 使命感・役割感
(6) 自分に誠実であること
(7) 受容の受容
第3節 CPEの特徴
(1) living human documentsの重視
(2) 人生の危機的経験を重視
(3) 患者との会話録を重視
(4) アイデンティティを明確化
第4節 資格
第5節 CPEの目的
(1) 患者への牧会訓練
(2) チャプレンとしてのセルフ・アイデンティティの形成
(3) 自己確立・自己成長
(4) 神学の体験化
第6節 CPEの内容
(1) 病棟訪問
(2) 説教実習
(3) グループワーク
(4) 個人面接
(5) スーパー・ヴァイザー(指導者)の養育
第15章 日本のスピリチュアルケア充実に向けて
第1節 日本的スピリチュアルケアの必要性
第2節 時間の確保
第3節 チャプレンの確保
第4節 経済的基盤の整備
第5節 医療スタッフの疲労と挫折の回避
第6節 人材の養成(神学教育・人格教育)
第7節 制度的問題
第8節 医療哲学の改革
第9節 総括
はじめに
第1節 スピリチュアルケアの意義
第2節 医療現場で
第3節 世界保健機関による憲章改定案
第4節 報告書から
第2章 スピリチュアリティの定義
第1節 語源
第2節 スピリットの聖書的理解
第3節 スピリットの多様な解釈
第4節 スピリチュアリティな存在
第5節 スピリチュアリティとは
第3章 スピリチュアリティの性質
第1節 スピリチュアリティの構造
(1) スピリチュアリティの2つの基本要因
1) 「存在の枠組み」―人生の土台・根拠
2) 自己同一性
(2) スピリチュアリティの特性
1) 超合理性・超科学性・超客観性
2) 普遍性
(3) スピリチュアリティの複合的要因
1) 感情的・情緒的要因
2) 哲学的要因
3) 宗教的要因
4) 重層的構造
第2節 スピリチュアリティと「死の危機」
(1) 危機とは何か
(2) 死の危機
(3) 死の危機とスピリチュアリティ
第3節 スピリチュアリティの機能
(1) 苦しみの緩和
(2) 「わたし」の意識化・覚醒化
(3) 存在の意味づけ
(4) 死後の世界を示す
(5) 生命維持の機能
(6) 機能そのものとしてのスピリチュアリティ
第4節 スピリチュアリティ覚醒の背景的要因
(1) 感受性の高揚
(2) 関心の特殊化
(3) 感情、情緒の無制御化
(4) 願望の実現
(5) 自己保存
第5節 具体例にみるスピリチュアリティ
(1) 高見 順(作家)の場合
(2) 青木日出雄(航空ジャーナリスト)の場合
第6節 スピリチュアリティと宗教性との違い
第7節 日本人のスピリチュアリティ
(1) 日本人の思想を探る
1) 鈴木大拙(仏教学者、1870~1966年)―日本的霊性
2) 柳田國男(民俗学者、1875~1962年)―日本人の他界論・死後観
3) 梅原 猛(哲学者、1925年~)―日本人のあの世観
4) 山折哲雄(宗教学者、1931年~)―日本人の宗教性
(2) 日本人のスピリチュアリティ
(3) 日本人のスピリチュアリティの課題
第4章 先行研究にみるスピリチュアリティの理解
はじめに
第1節 医師の研究
(1) シシリー・ソンダース
(2) ドロシイ・C・H・レイ
第2節 看護学的研究
(1) インジ・B・コーレス
(2) リンダ・J・カルペニート
第3節 社会福祉学的研究
(1) ケネス・J・ドカ
第4節 牧会学的研究(実践神学的研究)
(1) チャプレン「白書」
(2) デニス・クラス
(3) ジョージ・フィチット
(4) リチャード・ギルバート
第5節 哲学的研究
ジョン・モーガン
第6節 世界保健機関専門委員会の報告
第7節 スピリチュアルケア研究部会
第8節 日本における研究
第9節 研究のまとめと課題
第5章 スピリチュアルペイン
第1節 スピリチュアルペインとは
(1) スピリチュアルペインの定義
(2) スピリチュアルペインの内容
1) 「わたし」の生きる意味・目的・価値の喪失
2) 苦痛の意味を問う苦しみ
3) 死後への不安
4) 「わたし」の悔い・罪責感
(3) 「スピリチュアルペイン」と「心理的ペイン」との相違点
(4) 「スピリチュアルペイン」と「宗教的ペイン」との相違点
第2節 スピリチュアルペインとスピリチュアリティの覚醒
第3節 闘病記にみるスピリチュアルペイン
(1) 岸本英夫(宗教学者)の場合
(2) 西川喜作(精神科医)の場合
(3) 鴻農周策(NHK放送記者)の場合
(4) まとめ
第6章 スピリチュアルケア
はじめに
第1節 ケアとは何か
(1) ケアの原義
(2) ケアという行為
(3) ケアの中心
1) ケアの中心は人間である
2) 共感的意識
3) 相互依存的関係
4) 患者と医療者の水平な関係
5) 患者と共にあるもの
第2節 スピリチュアルケアがもたらすもの
(1) スピリチュアルケアを受ける側(患者・家族・スタッフなど)
1) 慰め
2) 生きる意欲
3) 生きる意味・目的
4) 将来の希望
5) 罪責感・悔いなどからの解放
(2)スピリチュアルケアを提供する側
1) 深い自己洞察
2) 自己の解放
3) 信じることの重要性
4) 人間の深みの世界に触れる喜び
5) 時間の有限性
6) 生の広がりへの認識
第7章 スピリチュアルケアを必要とする者
第1節 患者
第2節 家族
(1) 患者の闘病中の問題
(2) 家族の役割や責任
(3) 告知
(4) 喪失感
第3節 チームスタッフ
第8章 スピリチュアルケアの実践手順
第1節 スピリチュアルペインの評価と目標の設定
第2節 チームワークの形成
(1) 多様なスピリチュアルニーズに応える
(2) 医師、看護師
第3節 プロセスを認識する
第4節 効果の評価
第9章 スピリチュアルニーズ
はじめに
第1節 言語的表現
第2節 スピリチュアルアセスメント・シート
第10章 スピリチュアルアセスメント
スピリチュアルアセスメントとは
(1) スピリチュアルアセスメント
(2) スピリチュアルアセスメントの目的
(3) スピリチュアルアセスメントの本質的問題
(4) スピリチュアルアセスメントの多様性
(5) アセスメントがもつ問題
(6) 医療現場でのアセスメント
(7) 評価者の拡大
第11章 スピリチュアルペインヘの具体的ケア
はじめに
第1節 傾聴・共感・受容
第2節 ナラティブ・ベースド・メディスン
第3節 自己認識に注目する
第4節 出会いの効果
第5節 自然・文化・芸術によるケア
(1) 自然との出会い
(2) 文化との出会い
(3) 音楽、絵画、童話、絵本などとの出会い
第6節 宗教によるケア
第7節 夢の解釈によるケア
第12章 対話の構造
第1節 患者とケア・プロヴァイダーの距離
第2節 患者とケア・プロヴァイダーの間にあるもの
(1) 信頼
(2) 尊敬
(3) 優しさ、労り、思いやり
第3節 同伴者としてのケア・プロヴァイダー
(1) 共に歩む
(2) 医療の役割を果たす
(3) 感情の共有
第13章 スピリチュアルケア・プロヴァイダー
はじめに
第1節 スピリチュアルケア・プロヴァイダーに求められるもの
(1) 積極的死生観
(2) スピリチュアルな感性
(3) 人格的豊かさ
第2節 ケア・プロヴァイダーの役割
(1) 家族
(2) 友人、ボランティア
(3) 看護師
(4) 医師
(5) チャプレン(病院付牧師)
1) チャプレンの存在意義
2) ケアの留意点
第14章 チャプレンの教育プログラム
第1節 歴史的背景
第2節 CPEの基本理念
(1) 人間観
(2) 生の無条件肯定
(3) 積極的死生観
(4) 愛
(5) 使命感・役割感
(6) 自分に誠実であること
(7) 受容の受容
第3節 CPEの特徴
(1) living human documentsの重視
(2) 人生の危機的経験を重視
(3) 患者との会話録を重視
(4) アイデンティティを明確化
第4節 資格
第5節 CPEの目的
(1) 患者への牧会訓練
(2) チャプレンとしてのセルフ・アイデンティティの形成
(3) 自己確立・自己成長
(4) 神学の体験化
第6節 CPEの内容
(1) 病棟訪問
(2) 説教実習
(3) グループワーク
(4) 個人面接
(5) スーパー・ヴァイザー(指導者)の養育
第15章 日本のスピリチュアルケア充実に向けて
第1節 日本的スピリチュアルケアの必要性
第2節 時間の確保
第3節 チャプレンの確保
第4節 経済的基盤の整備
第5節 医療スタッフの疲労と挫折の回避
第6節 人材の養成(神学教育・人格教育)
第7節 制度的問題
第8節 医療哲学の改革
第9節 総括
書評
坪井 康次(東邦大学医学部心療内科教授)
昨今、ターミナルケアや緩和医療など医療の中で、スピリチュアルペインが取り上げられている。また、そのケアが、大きな課題とされるようになっている。このような時期に、この書が発刊されたことは、誠にタイムリーである。
ひとは、死の危機に直面したとき、いろいろな意味で辛い思いをする。「なぜ、わたしが」、「なぜ、こんな不幸なことが」などである。このような魂の奥底から発せられる問いかけにどのように答えるのか。
本書は、医療現場で求められているスピリチュアルケアの本質や特徴を明らかにし、そのケアの実践への道を示すことを目的としている。そればかりではなく、スピリチュアルケアを学問の対象として研究する「スピリチュアルケア学」を構築しようとする意欲的な書である。
著者によれば、スピリチュアリティの概念には、純粋な宗教学、神学、心理学、精神医学、社会学的な側面があるという。そのため、明確に定義することは困難であるとしている。しかし、臨床の実践家である著者らしく、「ケア」という人間学的な立場に立って、心理学的事実に基づいて、究極的な窮地に立ったとき「存在の枠組み」と「自己同一性」を超越的なものや究極的なものに求める機能と定義している。
長年にわたるスピリチュアルケアの臨床経験から、スピリチュアルティは、生得的に人間に備わっているもので、死という究極的な危機を目前にしたとき、自然にその人の中に現れてくるという。その危機とは、行き来することのできないこの世とあの世との間で、その存在が危うくなったときである。
また、研究のマテリアルとして、実際に死に瀕した人の闘病日記を紹介している。しかも、その多くは、宗教とは無関係、あるいは、宗教を否定した人々の残したものである。その中に、いかに多くの宗教的な用語が出てきているかを指摘し、人は重いスピリチュアルペインに遭遇したとき、自らの超越的、絶対的な存在を自らの中に作り出すのであるとしている。また、スピリチュアルケアに関する先行研究から、スピリチュアリティは、宗教と近いものではあるが、「人間のスピリチュアリティの性質は、組織としての宗教よりは少なくとも大きなものである」と紹介している。
われわれの臨床の中でも、身体の痛みや種々の愁訴の中に、スピリチュアルペインを見いだすことがある。精神的な死に瀕しているかのようにみえる。摂食障害患者の頑なな食行動異常やアクティングアウトの背景にその存在を感じることもしばしばである。
いろいろな意味で、ケアを提供する人をケア・プロバイダーというとすれば、人は、なぜ、ケア・プロバイダーとなろうとするのか。それは、スピリチュアリティと関係しているのではないか。
同じ著者に『スピリチュアルケア入門』があるが、本書では、さらに進めて、スピリチュアルアセスメント、具体的ケア、対話の構造、患者とプロバイダーの距離など、実践面の理論的な背景を明らかにしている。
本書は、タイトルは難しそうであるが、決して難解ではなく、臨床に即したものとなっている。そういう意味でも、緩和ケアやターミナルケアを志す人ばかりでなく、医療、看護、介護などケアに関わるすべての人に、一度は読んでおいていただきたい必読の書である。
『心身医学』45巻1号 p66(2005)
昨今、ターミナルケアや緩和医療など医療の中で、スピリチュアルペインが取り上げられている。また、そのケアが、大きな課題とされるようになっている。このような時期に、この書が発刊されたことは、誠にタイムリーである。
ひとは、死の危機に直面したとき、いろいろな意味で辛い思いをする。「なぜ、わたしが」、「なぜ、こんな不幸なことが」などである。このような魂の奥底から発せられる問いかけにどのように答えるのか。
本書は、医療現場で求められているスピリチュアルケアの本質や特徴を明らかにし、そのケアの実践への道を示すことを目的としている。そればかりではなく、スピリチュアルケアを学問の対象として研究する「スピリチュアルケア学」を構築しようとする意欲的な書である。
著者によれば、スピリチュアリティの概念には、純粋な宗教学、神学、心理学、精神医学、社会学的な側面があるという。そのため、明確に定義することは困難であるとしている。しかし、臨床の実践家である著者らしく、「ケア」という人間学的な立場に立って、心理学的事実に基づいて、究極的な窮地に立ったとき「存在の枠組み」と「自己同一性」を超越的なものや究極的なものに求める機能と定義している。
長年にわたるスピリチュアルケアの臨床経験から、スピリチュアルティは、生得的に人間に備わっているもので、死という究極的な危機を目前にしたとき、自然にその人の中に現れてくるという。その危機とは、行き来することのできないこの世とあの世との間で、その存在が危うくなったときである。
また、研究のマテリアルとして、実際に死に瀕した人の闘病日記を紹介している。しかも、その多くは、宗教とは無関係、あるいは、宗教を否定した人々の残したものである。その中に、いかに多くの宗教的な用語が出てきているかを指摘し、人は重いスピリチュアルペインに遭遇したとき、自らの超越的、絶対的な存在を自らの中に作り出すのであるとしている。また、スピリチュアルケアに関する先行研究から、スピリチュアリティは、宗教と近いものではあるが、「人間のスピリチュアリティの性質は、組織としての宗教よりは少なくとも大きなものである」と紹介している。
われわれの臨床の中でも、身体の痛みや種々の愁訴の中に、スピリチュアルペインを見いだすことがある。精神的な死に瀕しているかのようにみえる。摂食障害患者の頑なな食行動異常やアクティングアウトの背景にその存在を感じることもしばしばである。
いろいろな意味で、ケアを提供する人をケア・プロバイダーというとすれば、人は、なぜ、ケア・プロバイダーとなろうとするのか。それは、スピリチュアリティと関係しているのではないか。
同じ著者に『スピリチュアルケア入門』があるが、本書では、さらに進めて、スピリチュアルアセスメント、具体的ケア、対話の構造、患者とプロバイダーの距離など、実践面の理論的な背景を明らかにしている。
本書は、タイトルは難しそうであるが、決して難解ではなく、臨床に即したものとなっている。そういう意味でも、緩和ケアやターミナルケアを志す人ばかりでなく、医療、看護、介護などケアに関わるすべての人に、一度は読んでおいていただきたい必読の書である。
『心身医学』45巻1号 p66(2005)
【著】窪寺俊之(関西学院大学神学部教授 / 元・淀川キリスト教病院チャプレン)