内容紹介
西洋の科学的看護論が置き去りにしてしまったいのちの「救い」の看護論
「なぜ、私がガンにかかって死んでいかなければならないのか」という患者の問いに、あなたは答えることができますか。
人間の「いのち」、いのちの「生老病死」にかかわる仕事である看護は「人間存在の理由」「罹病の意味」「苦しみの意味」「生き方」「正しい心の在り方」「癒し」「救い」「死後の生」等の事柄に関する患者からの、そして看護者自身の内からの問いかけを避けることはできない。しかし現在、洪水のごとく看護の現場に移入される西洋の科学的看護論は、このような問いかけに看護の質としての答えを出すことはできない。
元来、日本の伝統的看護は仏教の精神とともに始まり、その精神は病める者、死にゆく者へのいのちの「救い」と「癒し」にあった。看護と仏教は科学的看護論の移入以前から、患者の生老病死に伴う苦痛や苦難に寄り添う看護を提供してきたのである。
わが国に根付く仏教の豊かな教えを看護に活かそうとする仏教看護論は、科学的看護論が答えることのできない「生老病死」に伴う問いかけに向き合いながら、看護される者、看護する者がともに医療・看護の場において人間的成熟を目指す道筋を照らしてくれるただ一つの、そしてわが国独自の「救い」の看護論である。
前著『仏教と看護』の初刊より7年の年月を経て執筆された本書は、継続される実践と考察により体系的発展をしつづける仏教看護論を、看護教育に携わる立場から仏教看護の入門者や看護学生にもわかりやすく講義してくれる。
目次
第1節 人間と宗教
(1)人間にとって宗教とは何か
(2)仏教とは何か
第2節 仏教と看護
(1)科学的看護と仏教看護
(2)仏教看護であることの意味
第3節 仏教看護の本質
(1)仏教看護の定義
(2)仏教看護の前提と理論上の主張
第2章 仏教看護の主要概念
第1節 人間という概念
(1)人間は五蘊仮和合としての存在である
(2)人間は変化変転し続けている存在である
(3)人間は過去・現在・未来の時間を生きている存在である
(4)人間は他のものとの関係の中で共存共生している存在である
(5)人間は煩悩をもった存在であると同時に自己実現に向かう存在である
(6)人間は独自性を有した唯一無二の存在である
第2節 苦という概念
(1)苦の概念
(2)病いの概念
(3)健康の概念
第3節 生活という概念
(1)生活の概念
(2)仏教の教えにみる生活の記述
(3)仏教看護における生活観
第4節 環境という概念
(1)環境の概念
(2)仏教における環境の概念
(3)仏教看護における環境観
第3章 仏教看護の方法
第1節 看護における看護過程・看護診断
第2節 仏教看護の方法論の基本となる教え
第3節 仏教看護方法論の基本となる考え方
(1)問題解決過程としての看護過程
(2)仏教看護の方法論としての看護過程の特色
第4節 仏教看護の方法としての看護過程
(1)方法としての看護過程と四諦の教え
(2)方法としての看護過程の5段階
第4章 仏教看護と観察
第1節 仏教看護と観察
(1)看護と観察
(2)仏教における観察の概念
第2節 仏教看護における観察の実際
(1)仏教看護における観察
(2)仏教看護における看護者側からの観察の手段
(3)仏教看護における患者自身による自己観察
(4)観察をする場・場面・時
第3節 「五蘊仮和合」の人間観からみた観察の機序
(1)五蘊仮和合の教えからみた観察の機序
(2)観察と快・不快の概念
(3)仏教の教えにみる快・不快の概念
第5章 仏教看護における人間関係
第1節 人間関係の基本となる教えと考え方
第2節 人間関係と看護者に求められる資質・態度
(1)看護者に求められる資質としての知識・技術・態度
(2)人間関係の基となる看護者の資質と態度
第3節 仏教看護における人間関係の実際
(1) 仏教の教えに学ぶ人間関係の実際
(2) 感情と人間関係
【著】 藤腹明子