内容紹介
スピリチュアルケア学を学びたい方のための本邦初,本格的教科書
いま、なぜスピリチュアルケアか。
1998年、WHO憲章の健康定義に「身体的」「精神的」「社会的」という要素に加え、Spiritualという霊的側面を付加すべきことが提示され、わが国にスピリチュアルな事柄に関する多大な関心を引き起こしてから10年。医療の現場における死の危機に直面した患者の魂へのケアの定期的導入を求める声は、今までにない高まりをみせ、一般病院でもスピリチュアルケアの研修・導入を行っているところもみられるようになった。日本のスピリチュアルケアの臨床は今、まさに次のステップへの段階の最中にある。
本書はそんなスピリチュアルケアを取り巻く社会情勢を背景に、スピリチュアルケア・ワーカーとしての豊富な臨床経験を持つ著者が、宗教や哲学のニュアンスでイメージ的に捉えられがちなスピリチュアルケアを、誰にでも理解できるよう、体系学的に、かつ臨床実践に即した学問として記したスピリチュアルケア学の基礎テキストである。「スピリチュアリティ」と「ケア」の本質を、生物学・人類学・宗教学・社会学・哲学・心理学・看護学・介護学などから学問的に探究して解き明かしながら、医療の中の「スピリチュアルケア・モデル」として再構築し、「なぜ私が病気にならなければならなかったのか」「もう生きている意味がない」といった終末期患者の魂の痛みをケアし、人間らしい生を実現するための具体的・臨床的ケア実践方法論を提示する。
スピリチュアリティとは何か、ケアとは何か、そしてスピリチュアルケアとは何か。医療・看護の学生、臨床家の方はもちろんのこと、死を前にして自身の存在の意義に揺らぐ人々のケアを、そしてそのような人々のケアにあたるスタッフ自身のケアを考えるすべての人に、ぜひ読んでほしいテキストである。
目次
1.スピリチュアルケアの歴史
1 宗教とスピリチュアルケア
2 スピリチュアルケアとホスピス運動
3 宗教への関心がない時代のスピリチュアルケア
2.日本のスピリチュアルケアの現在
1 ケアをしているのは宗教立病院のみ
2 宗教的ケアとスピリチュアルケアの混同
3 スピリチュアルケア・ワーカーの不足(教育機関の不足)
4 スピリチュアルケアの報酬問題
5 スピリチュアルケアが緩和ケアの一部になることの問題
3.緩和医療での「スピリチュアルケア」の位置づけ
4.日本におけるスピリチュアルケアの課題
1 スピリチュアルケア・ワーカーの養成
2 システムの構築
3 理論の構築とスピリチュアルケア学の学問的発展
5.スピリチュアルケア・モデルの構築
2章 スピリチュアリティの理解
1.スピリチュアリティの起源
1 スピリチュアリティが人間に備わっている理由
2 宗教を手がかりに
3 生物学的進化の観点から
4 人類史を手がかりに
5 深層心理学を手がかりに
2.スピリチュアリティの各領域における定義
1 宗教的理解(聖なるものへの志向性)
2 哲学的理解(存在の不安)
3 心理学的理解(セルフ・アイデンティティの確立)
4 社会学的理解(自己喪失から自己確立へ)
5 健康学的理解(癒し)
3.スピリチュアリティの言語的解釈
1 スピリチュアリティの言語的意味
2 スピリチュアリティの特徴―垂直的関係
3 スピリチュアリティの超越性と究極性
4.スピリチュアリティの近似概念(言語的意味)の整理
1 スピリチュアリティの近似語
2 日本語の問題
5.スピリチュアリティの隣接領域と相関関係
1 「宗教」とスピリチュアリティ
2 「哲学」とスピリチュアリティ
3 「心理学」とスピリチュアリティ
4 「社会学」とスピリチュアリティ
5 「人類学」とスピリチュアリティ
6 「神学」とスピリチュアリティ
6.スピリチュアリティの諸相
1 「生きる意味」としてのスピリチュアリティ
2 生きるための「枠組み」としてのスピリチュアリティ
3 「生きる土台」としてのスピリチュアリティ
4 「感情」「意識」としてのスピリチュアリティ
5 「セルフ・アイデンティティ」(自己同一性)としてのスピリチュアリティ
6 「ペイン」(苦痛)としてのスピリチュアリティ
7 「側面」としてのスピリチュアリティ
8 「機能」としてのスピリチュアリティ
9 「プロセス」としてのスピリチュアリティ
10 スピリチュアリティの理解とスピリチュアルケアへの実用
7.スピリチュアリティの諸問題
1 スピリチュアリティは生得的であり,形成されるもの
2 スピリチュアリティは生命の危機で覚醒する
3 スピリチュアリティは自己保存・自己防衛的機能を持つ
4 スピリチュアリティは自己を超えたものと自己の内面への志向性を持つ
5 スピリチュアリティは人間に備わっている(根拠)
6 スピリチュアリティの心理的影響
8.スピリチュアリティの構造的要因とその繋がり方
1 日本的スピリチュアリティの構造
9.個人(個別性,個人的特異性)とスピリチュアリティ
1 スピリチュアリティと風土
2 スピリチュアリティと文化的影響(時代的影響)
3 スピリチュアリティと家族関係(人間関係)
4 スピリチュアリティと人生体験(苦難,災難,戦争など)
5 スピリチュアリティと教育(学校教育)・宗教
6 スピリチュアリティと宗教的環境
3章 スピリチュアルケアへの発展
1.スピリチュアリティをケアの視点からみる
1 危機とスピリチュアルケアの必要性
2 危機にある人へのケアの意味
2.スピリチュアルケアとはなにか
1 スピリチュアルケアの必要性
2 スピリチュアルケアの目的と2つの型―ペインの緩和か全存在の支えか
3 スピリチュアルケアの定義
4 スピリチュアルケア,心理的ケア,宗教的ケアの相違点
5 スピリチュアルケアが扱う問題
3.スピリチュアルペインとは
1 スピリチュアルペインの定義
2 スピリチュアルペインの緩和とは
4.スピリチュアルケアの想定する具体的成果
1 現実に対する正しい視点(生きる価値観,視点の転換)を持つことができる
2 現在置かれているところで自己を受け入れる(自己受容)
3 将来への展望が生まれる(将来への不安から解放)
4 人間関係が改善する(人間関係が変わる,優しさ・思いやり・配慮が生まれる)
5 消極的感情が減少して,積極的感情が湧いてくる
4章 スピリチュアルケアの基盤となるもの
1.宗教学に学ぶ
1 さまざまな宗教学の主張
2 宗教学の主張とスピリチュアルケア学の構築
2.心理学理論に学ぶ
1 スピリチュアルな問題を聞き出すためのスキルとしてカウンセリングや心理療法
2 クライエント中心カウンセリング
3 ゲシュタルト療法
4 認知療法
5 交流分析
6 トランスパーソナル心理学
7 パストラル・カウンセリング=牧会カウンセリング
8 内観法
9 瞑想法
10 音楽療法
11 心理学理論とスピリチュアルケアのまとめ
5章 スピリチュアルケアの方法論
1.スピリチュアルケア・ワーカーはだれか
2.スピリチュアルケアのアセスメント論
1 スピリチュアル・アセスメントの必要性
2 スピリチュアル・アセスメントの視点と対象
3 スピリチュアル・アセスメントの方法と課題
4 スピリチュアル・アセスメントの可能性
5 アセスメント・シートを使用することの功罪
6 観察的アセスメント
3.スピリチュアルケアの場所・時
1 ケアの場所
2 ケアの時(設定,不設定)
2 病状とスピリチュアルケアの時期
4.スピリチュアルケアのアプローチ法
1 言語的アプローチ(精神的・心理的アプローチ)
2 身体的アプローチ
3 補助的アプローチ
4 時間・場所の共有
5.スピリチュアルケアの方法
1 面談
2 補助手段(自然,絵画,音楽,童話,写真など)を用いて
3 地域の人々との連携
6.守秘義務について
6章 スピリチュアルケアにおけるさまざまな具体的方法
1.スピリチュアルケアの具体的方法
1 課題解決型ケアと寄り添い型ケア
2 ドラマ解釈法
3 垂直関係洞察法
4 トピック法
5 祈り・瞑想法
2.スピリチュアルペインのタイプと具体的対応法
1 人生の目的・目標を喪失したケース
2 苦難の意味の喪失したケース
3 死後のいのちについて疑問をもつケース
4 罪責感,悔いをもつケース
5 複合的ペインをもつケース
7章 スピリチュアルケアのプロセス
1.患者の魂のプロセス
8章 具体的ケーススタディ
[ケース1] 生きがいを失った男性 68歳
[ケース2] 自分の人生を振り返って悔いをもつ男性 50歳
[ケース3] バチが当たったと苦しむ女性 68歳
9章 スピリチュアルケア・ワーカー論
1.ケアワーカーの人間論(資質・態度)
2.ケアワーカーの信仰
3.ケアワーカーの教育(養成)プログラムについて
4.資質を磨く訓練
5.ケアワーカーを支えるシステム論
1 スピリチュアルケア・ワーカーの心の負担
2 スピリチュアルケア・ワーカーを支えるシステムの必要性
3 スピリチュアルケア・ワーカーの自己管理
4 スピリチュアルケア・ワーカーの自己成長の可能性
5 スピリチュアルケア・ワーカーの倫理的問題
6.ケアワーカーの所属と報酬
1 ケアワーカーの所属場所
2 ケアワーカーの報酬
10章 スピリチュアルケアの実践に向けて
1.病院内でのスピリチュアルケアの在り方
2.病院におけるケアワーカーの所属と報酬
【著】窪寺俊之(関西学院大学神学部教授)